第11話:やっぱりミスった?

 王国側の哨所に戻って来たが、まだ増援は来ていないようだった。

 魔力の波を薄く広げ、どこまで来ているのかを探る。増援はすぐ近くで見つかり、このままだと十五分程で到着することだろう。

 そして俺は、入手した書類に目を落とす。

 このままでは、どこでこれを手に入れたのか、問い質されるだろう。

 隠すにしても、ここはエリンも一度調べている。ならば、あとからこの書類が見つかれば、どこで見つけたかと質問される。


「ど、どうしよう……」


 捨てるにも捨てられない。口頭で説明しても、信じる人は少ないだろう。なら、この書類を見せるしかない。

 書類には帝国の謀略に関する、国境守備隊に帝国兵や裏部隊が紛れ込んでいる情報が細やかに書かれていた。

 これ以上にない、情報源だ。

 そうこうしていると、エリンがやってきた。


「リク、増援を連れてきた!」


その後ろには増援が三百ほど。その増援の先頭に立つのは、誰でもない。我が第三騎士団のメイリス・アークリッド団長であった。

 その表情は、戦場で見た時と同様の、緊張が見て取れた。

 そして俺の姿を確認すると、その緊張が和らいだように見えた。

 だが、俺は緊張で冷や汗が流れ落ちていた。言い訳を思いついていないからだ。


「ど、どうしよう……」


 焦っていると、団長が下馬して俺の肩に手を置いて笑みを浮かべた。


「お前が無事で良かった。エリンから話は聞いている。帝国に動きは?」

「団長、お疲れ様です。待っている間、帝国領でこれを入手しました」


 そう言って書類を手渡す。受け取った団長が書類に目を通し、次第に表情が険しくなっていく。読み終えた団長は、エリンに書類を手渡し、同様に表情が驚きへと変わっていく。


「リク。これをどこで手に入れた? 帝国領とも聞こえたが……まさか、一人でこの先にある砦に潜入したのか? あそこの警備は厳重のはずだ」


 俺は身体強化で思考を高速化させ、言い訳を考える。


「……これ、偶然拾っただけですから。ほんの軽いお散歩中に見つけたんですよ。特に目立ったことはしてません。砦? いやいや、そんなことしてませんよ。ただ、結果的に砦が消えたというか……まあ、偶然です!」

「お散歩中に砦が消えたとは、随分と素晴らしい運だ。しかし、君の話しでは偶然という言葉が頻繁に出てくる。偶然が続くのも才能の一つだが、リク、君にはそれ以上の力がある。見えないところで何かを成し遂げているのだろう」


 俺は冷や汗が滝のように流れ出ている。バレている。バレているが、言及はしない。団長は「言わなくても分かっている」と言いたげな表情をしている。だが、俺は言いたい。勘違いしてくれよ! このままじゃ昇進することになるだろうがぁぁぁあ! なんで裏目に出てるんだよぉぉぉお⁉


「エリン。今すぐリクが入手したこの書類を参謀本部に」

「わかりました。リクに聞きたいことが」


 エリンが俺を見て尋ねる。


「他の諜報班の行方は?」

「……わからない。帝国領で俺に接触がなかったということは、恐らくはもう……」

「ありがとうございます。ではメイリス団長、私はこれで」

「頼んだ」


 エリンが去っていき、俺は団長に見つめられる。見つめられる時間が長いほど、緊張が高まり流れ落ちる冷や汗が多くなる。

 そう。ここはウィットに富んだジョークで場を和ませるべきだろう。


「ああ、団長、その視線はまるで伝説のドラゴンの炎のようです! ちょっと熱すぎて、俺の心が溶けそうです! でも、俺の心はドラゴンのように頑丈で、恋のブレスでは溶けませんから!」

「ふふ、リク、その心の頑丈さは評価するが、残念ながら帝国の謀略はドラゴンの炎以上に熾烈なようだ。もし君の心が溶けるなら、それは恋ではなく、敵の策略によるものかもしれない。だから、心を鍛えるのもいいが、次の任務に備えて、もっと冷静さを保つ訓練をする必要があるかもしれないな」

「確かに、帝国の謀略は厄介ですが、心の頑丈さも大事ですから。今度はその熱い視線で、敵を焦がしてもらえませんか? 俺はその後で冷や汗を流しておきますので」


 すると団長からため息が漏れた。


「お前と言うヤツは……もういい。とりあえず、哨所に関しては大雑把だが、エリンから話は聞いている。案内してくれ」

「わかりました。こちらです」


 俺は団長たちを案内することに。

 正式に国境守備隊に配置される部隊が来るまで、俺たちは滞在することになった。配属される部隊が来るのは、今回の件が片付くまでの間。つまり、数ヵ月この地に拘束されることになったのだった。


「君が砦を消えたと言った理由も、近々わかることになりそうだな」


 その言葉を聞いた俺は、あの時の行動を後悔するのだった。



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