第10話:何事もなかったように戻ろう!

「生きて逃げれると思っているのか?」

「俺の任務はな、敵に見つかることなく情報を収集することなんだ」

「ほう? では、すでに見つかった貴様は任務を失敗したということか。後で詳しく聞かせてもらおうか」


 そう言って男は挙げた腕を振り下ろした。

 焦りはない。むしろ、この状況こそが俺の得意分野だ。敵が群れをなして俺に押し寄せてくるが――魔力を纏わせた剣で一閃。

 瞬間、襲い掛かってきた裏部隊の者たちが、まとめて切り裂かれた。血しぶきが舞い、血の雨が降る中で俺は口元に笑みを浮かべる。

 動きが止まった味方に、指揮官の男が焦った声で部下に命令を下す。


「や、やれ! 狼狽えるな! 敵は一人だぞ! 生け捕りにするなどと考えるな! 殺せ!」


 身体強化を施した瞬間、視界が鋭く冴え渡った。身体強化の魔法が極限まで高まった瞬間、全てがスローモーションのように見える。兵たちの剣がゆっくりと動き出すのが手に取るようにわかる。だが、俺の剣の方が速い。


 まずは正面に突っ込んできた一人目。彼が剣を振り下ろす前に、俺の刃が彼の喉元を正確に貫いた。血が飛び散る間もなく、俺は瞬時に身体を回転させ、二人目の脇腹を斬り裂く。敵が驚く間もなく、俺はさらに三人目の腹に剣を叩き込んだ。


 斬撃の速度を落とさず、俺は次々と敵を屠っていく。彼らの顔に浮かぶ恐怖が、まるでスローモーションの映画のように鮮明に見える。俺の剣はまるで舞を踊るかのように流麗な動きで次々と敵をなぎ倒す。血が地面に飛び散り、赤く染め上げていく。


 帝国兵たちは次第に恐怖で足がすくんでいく。俺を囲んでいた彼らの円が崩れ、後退していくのが見て取れる。だが、逃げる隙など与えるつもりはない。俺は地面を蹴って一瞬で敵の懐に飛び込む。


 そのまま先頭の男を斬り裂き、深く潜り込む。同士討ちを避けるためか、敵は攻撃できない。その隙に、俺は剣に魔力を流し込み、円を描くように一閃した。

 数十人が斬り裂かれ、周囲を見渡すと、残っている敵の数は二十人にも満たなかった。

 怯えているのなら、殺しやすくていい。残っている敵兵に俺は一気に詰め寄り斬り裂いて行く。

 指揮官の男が後退り、俺を怯えた表情で見ていた。

 残ったのは、砦の指揮官だろう男と、裏部隊が十人ほどのみ。


「う、裏部隊は何をしている! 早く殺せ!」


 すると、裏部隊の者たち十人が俺を囲んだが、攻めて来ようとはせず、様子を伺っていた。


「どうした。怖気づいたか? かかって来いよ。じゃなきゃ――全滅だぞ?」


 そう告げると、裏部隊の者たちは顔を見合わせて頷き、全員が一斉に動いた。

速い――裏部隊らしい動きだが、俺の身体強化魔法を前にしては遅く感じる。まずは左側から飛び込んできた一人。刃が閃くのを見て、瞬時に後ろに一歩引く。すかさず、俺は反撃。

剣を横に振り抜くと、彼の胸に深々と斬り込む。


「一人……」


振り向くと、すぐに別の一人が背後から短剣で刺しに来る。足音を聞き分け、俺は身体を捻り、その刃を紙一重で避けると同時に、肘で彼の顔面を打ちつける。鈍い音とともに倒れ込む彼を無視し、さらに前方に斬り込む。


「次だ」


俺の斬撃はまるで嵐のように勢いを増していく。三人、四人と倒していくうちに、残りの連中も焦りを隠せなくなってきたのがわかる。だが、油断はできない。裏部隊は単純な力押しではなく、連携を取って動いてくる。


「挟み込め!」


裏部隊の指揮官だろう者が叫ぶと、二人が左右から一斉に襲いかかってきた。だが、その動きは読んでいた。俺は魔力を足に集中させ、真上に跳躍。彼らの頭上を飛び越え、着地と同時に二人の背後に回り込む。


「遅いな」


振り返る暇もなく、俺の剣が二人の背中を斬り裂いた。残るは半分――だが、彼らの動きが変わった。俺を取り囲む輪がさらに狭まる。手にしているのは普通の剣ではない。光を吸い込むような黒い刃だ。


「なるほど、ちょっと厄介だな」

俺は少しずつ後退する。次の攻撃を誘うために、わざと無防備に、警戒しているように見せる。


「今だ!」


予想通り、一斉に突っ込んでくる。五人全員が俺に向かってきた――だが、俺も動く。全身に魔力を集中させ、瞬時に反転。まるで光のような一閃を繰り出す。五人全員の動きが止まり、次の瞬間には血が吹き出し、彼らは地面に崩れ落ちた。


「これで……九人」


最後に残った男が俺を睨みつける。彼は剣を構え、俺の動きを読み取ろうとしている。しかし、すでに決着は着いている。

俺はその場で剣を横に一閃した。

遅れて彼の首から血が噴き出し、その場に崩れ落ちた。


俺は剣を振って血を払い、周囲を見渡す。裏部隊の十人は全て倒れ、動く者は砦の指揮官である彼以外、誰も残っていない。夜の静けさが戻り、俺は再び一人になった。


「……何とか片付いたか」


 そう呟き、俺は最後に残った彼の元へと向かう。彼は信じられないのか、その場にへたり込んでしまった。

 俺はへたり込んだ彼の前で立ち止まり、笑みを浮かべながら告げた。


「――見つかったとしても、今回みたいに全員消せば問題ないさ」


「消せば問題ない、だと……?」

「そう。だからお前もここで消えていくんだ。だから必要な情報は先に聞いた」

「化け物め……」

「心外だな。俺はただ、生きるのに必死だっただけ。たまたま戦う才能があったに過ぎない」


 俺は指揮官の男の首を斬り飛ばした。

 そのまま砦内に入り、書類を手に入れた俺は、改めてこの惨状を目にする。

 ありのまま正直に話せば目立ってしまうし、昇進することだろう。


「――よし。何事もなかったように戻ろう!」



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先行公開で第2章3話まで公開中!


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