第6話:調査
「俺はメイリス騎士団長から、国境で不穏な動きがあると聞いて調査にきていた。そこで、最初に国境守備隊に話を聞きに行こうとして、あの光景を見て君を見つけた」
「そう。今回の調査は第五諜報班が請け負っていたが、騎士団からも優秀な者を派遣すると言っていた。それがリクということだな?」
俺は頷くことで肯定する。しかし、疑問が残る。
第五諜報班が請け負ったのなら、どうして彼女しかいないのかだ。
「どうしてエリンしかいない? 他の仲間はどうした?」
彼女は俯き「わからない」と言葉を零した。
「数日前、帝国領行くと言って、国境を越えて調査に向かった。定時連絡がなく、何か起きたのではと思い、国境守備隊が駐屯している場所を見に行くともぬけの殻になっていた。私達が来た時には確かに存在していたはずなのだ」
「……おかしい」
こんな短時間で全員が消えるのは可笑しすぎる。可能性としてはいくつか挙げられる。
一つ目は、血を出さずに殺され、死体を隠された。
二つ目は、守備隊が王国を裏切り帝国に情報を持って逃げた。
三つ目に、最初から守備隊狙いだということだ。全員殺されておらず、情報を吐かせるために連れ去れた。
それらをエリンに話すと、「聞いた話しがある」と前置きをして話し始めた。
「戦争中、帝国の裏部隊が色々と王国に対して行っていた。一度、戦ったことがあり、かなりの手練れが揃っていたのを覚えている。奴らが取る手法は、無力化して連れ去り、情報を吐かせることだった」
「つまり、裏部隊がこの件に関わっていると。なら、他の諜報部隊は……」
「すでに死んでいるか、無力化されて連れ去られた後だろう」
厄介なことに巻き込まれてしまった。このまま何事もなく、団長には「調査しましたが、この件は第五諜報班が引き継ぐようです」とか言って帰りたかった。
このまま情報を持ち帰らずに帰ったら、怒られるのはもちろん、なぜもっと調査をしなかったと怒られて失望されてしまう。
「裏部隊が動いていることを念頭に、エリンは一度戻り、応援を呼んできてくれ。国境守備隊がいないのは問題だ。停戦協定を結んだとはいえ、帝国がこの機を逃すはずがない」
「しかし、ここで一人でとなると……」
「なんとかなる。危なくなれば逃げるさ」
「……わかった。死ぬなよ。すぐに応援を呼んでくる」
そう言って彼女は姿を消した。一人残った俺は、これからの行動を考える。
エリンが去った後、辺りは再び静寂に包まれた。夕暮れの風が肌を撫で、国境の荒れた大地の冷たさを感じさせる。俺は一人、国境の守備隊が消えた理由を探るべく、建物の中へと足を踏み入れた。
「なんとかなる、か…」
自分で言ったことだが、その言葉には自信がなかった。
団長に叱られるのも嫌だし、これ以上昇進の話を持ち出されるのもまっぴらごめんだ。だが、ここで引き返してしまえば、団長だけでなく、自分自身にも失望してしまう気がする。
建物の中は、薄暗く荒れ果てていた。机や椅子が倒れ、紙が床に散乱している。
戦闘の跡はないが、何か異常が起こったことは明らかだった。
剣の柄に手を添え、慎重に周囲を見渡しながら進む。
「帝国の裏部隊か…」
エリンが言っていた情報が脳裏をよぎる。もし彼らが本当に関わっているのだとすれば、単なる守備隊の消失では済まない。
奴らはただ戦うだけではなく、相手の情報を引き出し、戦略的に王国を崩壊させようとしているはずだ。
俺は一つの部屋に足を踏み入れた。そこには一枚の地図が貼られており、国境周辺の地形が詳細に描かれている。
守備隊がここで何をしていたのか、何か痕跡を残していないかと目を走らせる。
すると、机の端に置かれた小さなメモに目が留まった。拾い上げて見ると、そこには短いメッセージが書かれていた。
「『裏切り者に注意』…?」
メモの内容に眉をひそめる。これが守備隊の誰かが残したものなら、内部に裏切り者がいた可能性がある。
最悪の場合、守備隊そのものが帝国側と通じていたかもしれない。
「もしそうだとしたら…」
俺の頭の中で考えが巡る。守備隊が自ら帝国に渡り、情報を引き渡したとしたら、それは王国にとって致命的だ。だが、エリンが言っていたように、彼らが捕らえられた可能性もある。
どちらにせよ、俺一人でどうにかできる問題ではない。
それにしても、どうして俺なんかがここにいるんだ?
こんな危険な状況に自ら突っ込むなんて、昇進を嫌う俺にはまったく似合わない行動だ。だが、目の前の問題を放置して帰ることは、どうしてもできない。
「面倒なことになったな……」
俺はメモをポケットにしまい、さらに調べを続けた。
次に目に入ったのは、地図の一部に赤い印がつけられている場所だった。
印のある場所は国境から少し離れた谷の近く。何かが隠されているのかもしれない。
「ここが次の手がかりか……?」
俺は軽くため息をつき、建物を後にした。エリンが応援を連れて戻ってくるまでの間に、少しでもこの謎に近づけるかもしれない。
そして、もしこの調査が成功してしまえば――いや、それは考えたくない。
「これ以上、団長に評価されるのは困るんだが……」
自分に言い聞かせるようにそうつぶやき、馬に乗り、赤い印のつけられた場所に向かって駆け出した。
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