第15話:どこか様子のおかしいお姫様
多分俺がいつまでたっても戻ってこないからお菓子を探していると判断して仕掛けに来たんだろうな。だが残念、その発言自体が仇となったな。
「わかった、香里菜。少し待ってろ」
香里菜にそれだけ告げると、俺は自分の部屋に戻ってリュックの中からとあるものを取り出した。
「はい、香里菜」
そして、キッチンへと戻って香里菜にそのとあるもの、昨日守と一緒に作ったクッキーを渡した。
「しっかりお菓子用意してたのかあ。さすがだなあ。あたしのために?」
「いや、違うぞ?」
「あれ?でもなんで今別の部屋に行ってたの?」
「リュックに入れていたのを香里菜に言われて思い出したから取りに行っただけだぞ?」
「ん?それって登校用のやつ?」
「そうだな」
「つまり、学校でもそれを渡せたと」
「そういうことになるな」
「…学校でやればよかった」
「そうしたらわざわざここに来る必要はなかったからか?」
「いや、どっちにしてもここに来る気ではあったから別問題」
香里菜の発言からどうやら目の前の白色少女はハロウィンにかこつけてお菓子をたかりに来たらしい。だが、俺がたまたまとはいえ用意していたカウンターによって跳ね返されてしまった。でも、これだけがここに来た目的ではなかったらしい。
「はあ。あ、香里菜は飲み物何がいいとかあるか?」
「んー、それじゃあ砂糖たっぷりの紅茶でお願い」
「篠原さんは?」
「そうですね。では私も紅茶で。あ、無糖でミルクだけお願いします」
俺はそうだな、コーヒーにするか。
そうして三人分のカップと昨日焼いたクッキーの残りをトレイに乗せてリビングへと戻った。そして、俺はソファの前の机にそのトレイを置き、座布団を用意した後、篠原さんと香里菜の正面へと座った。ちなみに香里菜はクッキーを手にほくほく顔で篠原さんの隣に座っていた。
「出せるもの今これしかないがいいか?」
「いえいえ、出していただけるだけでもありがたいです」
「うん、すー君ありがとねー」
そう言って二人は早速クッキーに手を伸ばした。
「ん、美味しいですね」
「おー、さすがだね、すー君。褒めて遣わそう」
そして、二人の感想がこれであった。どうやらお気に召したらしい。
「満足してくれたならよかった」
「これって手作りだよね?」
そう香里菜は手に持ったクッキーの袋と机の上のクッキーを並べながら聞いてきた。
「そうだな。昨日、守、俺の友人なんだが、そいつが彼女にハロウィン用にクッキーを作りたいって言いだしたからちょっとな」
「あー、守君か。なるほどね。あそこのカップルがアツアツなのは有名な話だからなあ。で、その手伝いをするついでに作ったってことね」
「そうだな。香里菜に渡したのはその一部だな」
「そうなんだー」
香里菜は手のクッキーをニコニコしながら見つめていた。一方、篠原さんは、というと表面上は俺たちのやり取りを微笑ましく見ているように見える。見えるんだけども、微かになんか手が震えているように見えるのは気のせいなのだろうか。
「どうしたの?花恋ちゃん?」
「いえ、特に何もないですが…?」
「もしかして羨ましいのー?」
そう言って香里菜は手に持ったクッキーを篠原さんの前で見せびらかす。
「香里菜、煽るな」
「いえ、本当に大丈夫ですから」
一応篠原さんの分も余って入るんだが、どうしようか。これを言ってもいいのだが、篠原さんに遠慮されてしまうと堂々巡りになってしまうような気がする。
「まあ、とりあえず花恋ちゃんをからかうのはこれくらいにして」
「あのなあ」
「少し話したい事があったんだけどね。悲しいことにあたしにはもう時間がないんだよね」
「習い事でもあるのか?」
「そうだねー。これでも結構減ったんだけどそれでもね」
「そういうとこ見るとやっぱ香里菜ってお嬢様なんだなって思うわ」
「まあ実際そうですし?」
そう言って胸を張る香里菜。それをジトっとした目で見る篠原さん。いや、なんで?
「まあ、というわけであたしもう帰っちゃうんだけどさ。その前にさ、すー君」
「なんだ?」
「今の連絡先交換して」
「いるのか?」
「まあ色々と相談したいこととかあったときに?」
「ん、ちょっとスマホ取ってくるから待っててくれ」
自室からスマホを取ってきて香里菜とLEINEの連絡先を交換した。
「ん、これで大丈夫だな」
俺のスマホには謎生物のスタンプが映っている。香里菜が確認の為に送ってきたものだ。とりあえずこれで連絡先の交換は完了した。
「それじゃあね、すー君。それに花恋ちゃん!」
そして、香里菜は満足そうにそのスマホの画面を確認すると、慌ただしく帰って行った。
「なんというか、久々に会ったけど嵐みたいなやつだったな。結局お菓子をたかりにきただけみたいになってるし。」
あ、あいつ、地味に篠原さんを俺の家に置いて帰ってやがる。
「ええと、篠原さんも帰るか?」
そう言って篠原さんの方に視線を戻すと、頬をぷくーっと可愛らしく膨らませている篠原さんがいた。その様子はどこか不満げな子供を想起させるものだった。
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