第12話:妖精の皮を被った何か

 さて、この学校には篠原ささはら花恋かれんというお姫様と呼ばれる美少女がいる、という話は前もしたと思う。しかし、それとは別に、妖精と呼ばれる少女もいる。


「ええと、里乃さとの香里菜かりなさん、でしたよね?」

「うん、そうだよ。同じクラスの篠原花恋ちゃん、それにすー君」


 俺たちを呼び出した犯人は白髪赤眼のツインテール少女、里乃香里菜だった。彼女は、低身長で巨乳で、その髪と目からくる日本人離れした容姿を持っている。そして、由緒正しき里乃家の令嬢であるという育ちの良さからくる立ち振る舞いができる。それらの合わせ技によって、学校での彼女はどこか神秘的で近寄りがたい雰囲気を纏っているという。その結果生まれた呼び名が妖精、とのことだ。


 しかし、今目の前にいる少女からは妖精らしさはあまり感じられない。確かに容姿から来る神秘さ自体はある。だが、その雰囲気からは普段言われているほどの神秘性は感じない。行動が容姿が醸し出す神秘性をかき消してしまっている感じだ。


 まあ、俺としては見慣れたものではあるのだけどな。どこか懐かしさすら覚える。


「んー?あれー?もしかしてあたしがあの手紙の送り主って事実に喜んでるのかなー?」

「いや、なんでこんなことしたのか理解できなくて言葉が出なかっただけだが?」

「そっかあ、まあいいや。んじゃ改めてね。すー君、久しぶりだね」

「…そうだな、久しぶり」

「むう、久しぶりに会ったのにその反応?こんなに可愛い香里菜ちゃんに会えたのに?」

「いや、保育園時代から見慣れてるし。特に香里菜の容姿に何か感じたりなんてことはない」

「えー?面白くないなー」


 俺はこいつの中身は噂になっているものと全然違うことを知っている。確かにその立ち振る舞いは香里菜自身が身につけたものだ。だけれど、それはあくまで表面上のもの。中身は別物だ。その中身とは、端的に言うとウザイ。まあ、ウザイ。とにかくウザイ。


 他人をおもちゃにして遊ぶ悪癖があって、その反応を見てかなりの愉悦を感じるとかいうまあいい性格をしている。それらがはっきりと表に出てきたのは小学校の高学年くらいで、そのころからの付き合いである。なお、一番の被害者は当然のように俺である。そのおかげ?で軽くあしらえるんだけどな。


「で、そんな可愛い香里菜はなんのようだ?」

「それはねー、この前すー君と花恋ちゃんが上から一緒に下りてくるのを見ちゃったからだよ。一回だけならたまたまなのかなー、とも思ったんだけど何回か見たからさあ。それで、一体どんな関係なのか確かめたくなったから呼び出しちゃった」

「なら素直に聞いてくれればいいものを」

「だって面白くないじゃん。それに、少し疎遠になってたし、クラスも違うから話しづらかったし」

「いや、それはそうだがなあ」

「というか、ここで呼び出された二人が顔を合わせて勘違いする流れを見たかったのになんでナチュラルに話し始めちゃうのかなー」

「予め示し合わせてたからだが?」

「あー、なるほど。確かに花恋ちゃん昼放課は教室にいなかったね。そのタイミングかー。なるほどねー」

「すみません、もしかして二人は幼馴染、というやつなのですか?」

「ん、そうだな。会うのは三年以上振りだがな」


 篠原さんの予想はドンビシャで当たっている。俺と香里菜は幼馴染である。どうやら母親同士が中学からの知り合いだったらしい。で、その関係で幼いころから一緒にいることが多かった。俺たちが中学に進学するタイミングで香里菜の方が私立の中学校へと行くと同時に引っ越してしまった。その結果として香里菜も言っていたようにそれ以降は疎遠となってしまった。なので、これが久しぶりの再会となっているわけである。


「まあ俺と香里奈の話はいいとしてだな。香里奈、聞きたいことがあるんだが」

「ん、なに?」

「俺たちをここに呼び出した理由はなんだ?」

「さっき言わなかったっけ?」

「つまり面白そうだったからと」

「うん、そうだよ?」

「そうだよ?じゃないが?」


 まったく、この悪い癖を治す気がこの幼馴染にはあるのだろうか。…いや、ない気がする。少なくとも会っていない三年の間には治っていなかった。


「まあ面白そうだったから、って以外にも理由はあるんだけどね」

「それ以外の理由、ねえ?」


 どうせ碌でもないものなんだろうな。だって香里菜だし。


「なんで花恋ちゃんってすー君と話すときと普段で人が違うのかなって」

「え?私ですか?」


 ここまで俺たち二人が話している横で完全に置いてけぼりを食らっていた篠原さんに矛先が向いた。唐突に矛先を向けられた篠原さんその茶色の目をパチクリとさせている。


「そうそう、花恋ちゃん。だって初めて二人が一緒にいたのを見たときから気づいてはいたんだよ?花恋ちゃんの様子が教室にいるときと違うなって。で、今さっきまでの二人のやり取りをしてて確信したんだよ。あ、花恋ちゃんってこっちが多分素なんだなって」

「あー、なるほど。ちなみにいつから聞いていたんだ?」

「最初からだけど?」

「来る前から待ち伏せしてたと?」

「うん」

「あの無駄に凝った手紙を用意してか?」

「うん。結構あの手紙の用意面倒だったんだよ?すー君に渡した方はすー君にばれないように普段の変な癖のある字じゃなくて女の子っぽい丸文字で偽装したし、花恋ちゃんに渡した方はわざわざ新聞買ってそれを切り抜いて作ったんだよ?結構欲しい文字探すの大変だったんだよ?」

「なんだその無駄な努力」


 変なところで凝ってやがる…。俺の方はラブレターへの偽装が目的なんだろうけど、篠原さんに渡した方については、いや、多分やってみたかっただけだな。香里菜なら間違いない。


―――――――――


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