第11話:謎の手紙の犯人は?

「で、なんの用だ?篠原ささはらさん」


 俺たちはあまり人が来ない西校舎の階段の踊り場へと移動してきていた。俺たちの通うこの岡ノ上高校には全部で三つの校舎がある。下駄箱と一年の教室、それに図書室のある南校舎、二年、及び三年の教室、そして各種理科室のある北校舎、そして、コンピューター室、和室、多目的教室のある西校舎だ。ちなみにあと夜間定時制の食堂や音楽室や書道室、美術室のある校舎もあるのだが、そちらには特に固有名称はなかったりする。

 

 まあ、この内訳の通り、普段誰かが使っている教室のない西校舎にわざわざ放課の時間に来る人はあまりいない。つまり、この西校舎は密会するにあたってかなり便利だということだ。ちなみに図書室隣の階段もかなり便利だったりする。というか、篠原さんと初めて会った場所も南校舎と西校舎の渡り廊下だったりするし。


 閑話休題


 というわけで俺たち二人は人目に付きにくい場所に来ているということになる。

 

「朝のSTの前の時間に目が合ったでしょ?その時に机の上に置いてあったものが目に入っちゃって」

「ああ、あの手紙のことか。それがどうかしたのか?」

「それがね」


 そう言うと、篠原さんは制服の内ポケットから何かを取り出した。それは手紙だった。俺がもらったものと同じハートのシールで封がされている。


「これって同じやつ、だよな?」

「そう、同じやつ。正直いつものラブレターかなあって思ったんだけど、それがどうも違ってね」


 篠原さんは前に話しているときにラブレターが多すぎると愚痴っていたからいつもの、と言われると説得力がある。でも、そんな篠原さんが違うって言う手紙って一体何なのだろうか。すると、篠原さんが手紙をそっと差し出してくる。中身を見ろということなのだろうか?


 差し出された手紙を受け取ってアイコンタクトで中身を見ていいか確認してみる。その結果、中身を確認してよさそうだったので、その中身を恐る恐る取り出してみる。すると、中身にはこんなものが入っていた。


篠原花恋かれん

 もし、貴女の秘密をばらされたくなければ今日の放課後、北校舎裏に来るように。

                                   S.K. より』


 その文字列は新聞紙の切り抜きで作られていた。あれだ、ドラマとか漫画とかでよくある怪盗の予告状みたいな感じだ。


「あ、私が一人でこっそり確認した時と同じ反応してる」


 俺が予想だにしていなかった中身に絶句していたところで、篠原さんが話しかけてくる。というか、篠原さんも同じ反応したんだ。そうなんだ。お姫様のそんな反応、少し見てみたかったかもしれない。


「いや、俺のもらったやつと中身が全然違うせいで軽く混乱してた」

「え?瀬川せがわ君のやつはどんな感じでどんな内容が書いてあったの?」

「いや、中身は典型的なラブレターだったな。話したいことがあるから北校舎裏に来てください、って。文字も女子が書くとしたらこれって感じで出てきそうな丸文字で。でも、そっちと違って送り主の名前はイニシャルでさえ書いてなかったな」

「マジかー。外装は同じだし、呼び出し時間も場所も同じだから多分送り主って同一人物だろうけどここまで内容が違うとなー。何が目的なんだろう?」


 目的、目的かあ。多分手紙に書かれている篠原さんの抱えている秘密ってのは俺との密会とのことだろうけど。どこかで見られたのかもしれないけれど、もしそうなら、何かしらの噂になっているような気がする。如何せん、篠原花恋という少女はお姫様と呼ばれる美少女なのだ。それも告白を断り続けている。そんな彼女が俺みたいな男子と密会をしているなんてばれたら噂にならないはずがない。というか噂で止まる気がしない。


 でも、実際にはそうはなっていない。それを見た人が隠してくれているのか、弱みを握っている状態にして脅そうとしているのか、それまではわからないが、きっとこの手紙の送り主には何かしらの目的があるのだろう。しかし、その目的が予想できない。


「篠原さんの弱みを握っておくためとか?」

「そうなると、私だけ呼び出せばいいと思うんだけど?そもそもこれって私の弱みになるのかな?」

「あー、何とも言えないような?どっちかというと俺の方の弱みになりそうじゃないか?」

「んー、どっちにしてもそれで瀬川君を脅したいなら私も呼び出す意味がない」


 腕を組んで悩む俺たち二人。けれど、いくら悩んでもその答えは思いつかない。


「これただの愉快犯だったりしないかなあ?」

「どうだろうな。もしかしたら密会の噂が本当か確かめるのが目的かもしれないし」

「あー、その線もあるか」


 そうして話し合いをするが、結局結論にはたどり着けない。ヒントとしては篠原さんの手紙に書いてあるイニシャルだけなのだが、それも手掛かりにならない。というか、このイニシャルって篠原さんとも同じなんだよな。でも、そこを詰めても意味がないような気がする。だって、もしこれが自作自演だとすると、何をしたいのかが全くわからないからな。


 結局、いくら話しても何がしたいのかはよくわからなかった。というか、内容が違いすぎるせいで絞り切れなかったのが正しい。その結果として、この件についての対応は篠原さんのこの言葉に集約されることになった。


「罠なのかそれとも何か別のものなのかはわからないけどとりあえず二人で行ってみない?二人で待っていたらそのうち犯人出てくるでしょ。出てこなかったとしたらまあ、それはそのときってことで」


 つまり、罠なような感じがあるこの呼び出しに応じてみよう、ということである。ただ考えるのがめんどくさくなっただけともいう。


「わかった。それで行こう」

「おっけー。それじゃ放課後に現地集合ってことでいいかな?」

「ん、了解」


 もうそろそろ放課の時間も終わりそうということで最後にどうやって呼び出し場所で合流するかだけ決めて篠原さんと別れた。…そういえば、弁当の存在忘れてたな。どうにか学校にいる間に食べきれるだろうか?


 そうして放課後、俺たち二人は北校舎の裏に集合していた。正確に言うと北校舎と西校舎の間あたりと言った方が正しいだろう。


「さあて、呼び出した犯人は来るのかな?」

「どうだろうな。多分来るとは思うが」


 というか、来てもらわないと困る。と、そんな感じに二人で軽く話しながら呼び出した犯人が来るのを待つ。


「そういえばさ、篠原さん」

「ん?なに?」

「これから第三者が来ると予想される状態なのにその調子で話してて大丈夫なのか?」

「…」


 話しているうちに思ったことを篠原さんに告げた。すると、篠原さんは無言で顔を背けると両手で自らの頬をパンッと叩いた。


「失念していました。これで大丈夫です」


 そして、俺の方へと再び顔を向けたときには清楚の仮面をつけていた。どうやらさっきのは切り替えのスイッチか何かだったらしい。でも、俺と話す前後ではそんな素振り一切見せていなかったような?


「それっていつも意識的にしているのか?」

「いいえ、してないですね。基本的にはこっちでいることの方が多いので。ただ、瀬川君といるときは表でいた方が落ち着いてしまうのでどうにか意識的に変えてやらないといけないんですよ」


 うーん?表の顔を出すのは俺の前だけ?もしかして篠原さんって親の前でもこの状態なのか?そんな疑問が脳裏を過るが、その答えにはちょっとした理由で辿り着けなかった。


 それはなぜか。俺の視界にとあるものが映ったからだ。それは北校舎側の窓にあった。その窓の下端、そこに見えるぴょこぴょこと跳ねる白い頭が。あ、やべ、目が合った。すると、その白い髪の持ち主は仕舞っていた窓をガッと開け放った。


「あちゃー、バレちゃったや。このままもう少しこのまま様子見ていたかったんだけどなー」


 と、そんな感じにニコニコとここに俺たちを呼び出したであろう容疑者はのたまったのであった。


―――――――――


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