第10話:ハロウィンとラブレター?

「おっすー、昨日はありがとな、すすむ。って、それもしかしてラブレターか?」


 ハロウィンの朝、俺が下駄箱に入っていた問題の手紙を机の上に置いて頭を抱えていると、登校してきたまもるにそれを見つけられてしまった。いや、見える位置に置いているから当たり前か。


「わからん。中身まだ見てない」

「えー?さっさと開けようぜ。ほら早く」

「…ここでうだうだしてても仕方ないし開けるか」


 急かされて開けるものではないような気もするが、開けねば話が進まないということで意を決して手紙の封を切った。そこには一枚の紙が入っていた。そこにはこう書いてあった。


瀬川せがわ進君へ

  あなたに伝えたいことがあります。今日の放課後に北校舎の裏に来てください

お待ちしています。                           』


 そんな可愛らしい丸文字で書かれた文字列を見た俺たちの間は静寂に包まれた。そして、互いに目を合わせた後、守が一言。


「やっぱりラブレターじゃねえか」


 うん、俺の気持ちの代弁ありがとう。でも、少し声が大きいと思うんだ。ほら、何人かこっち見てるから。


「で、どうすんだ?進?」


 それを知ってか知らずか、今度は声を小さくして俺に尋ねてくる。


「一応行くかなあ」

「それは告白を期待してか?」

「そういう訳ではないが、さすがに呼び出しを食らっておいて行かないのは不誠実だろうからな」

「まあそれはそうだろうな。話は一応聞いておくと」

「そのつもりだ。ただ、それが告白であったとしても受ける気は一切ないがな」

「ふーん、本当か?」

「本当だぞ?」


 実際俺は彼女が欲しいとかの気持ちは一切ない。そんな気になれない。俺には似合わない。大切な人を守れなかった俺には相応しくない。


「まあ、結果は教えてくれ」

「覚えていたらなー?」

「んー、何の話してるのー?」


 そこに、麻耶まやもやってきた。目を擦っていて、その目もどこかトロンとしているあたり多分起きてからあまり時間は経っていないのだろう。


「麻耶か。いや、これ見てよ」


 そうして、守は俺の机の上の手紙を指差し、麻耶はそれを一瞥した。そして、表情をニヤニヤしたものへと変えた。


「これもしかしなくてもラブレター?」

「そうにしか見えんだろ?」

「で、会いに行くの―?」

「義理は通すみたいだぞ?」

「ほうほう、面白くないなー。告白されたら受ければいいのにー」


 おい、二人揃って人の恋愛沙汰をおもちゃにしようとするんじゃない。いや、このバカップルにはいくら言っても無駄か?


「おい、そこの二人。俺のことに対してあれやこれや言うのはやめんか」

「えー?だって面白いしー?」

「人の恋沙汰が?」

「そうだよー?少なくとも私はそう思うよー」


 少なくとも麻耶は他人の恋愛事情に興味があるらしい。正直、少し意外だな。守?知らん。


「意外とこういうのに麻耶って興味あるんだな」

「意外とって何ー?私だってしっかり女の子なんだぞー?」

「そうか、すまなかった」

「素直でよろしいー」


 さすがに失言が過ぎたらしく、麻耶が機嫌を損ねて拗ねてしまいそうだったのですぐに謝っておいた。麻耶の機嫌を損ねると守の追撃も飛んでくるからそれ対策もある。


「そうだぞ、進。麻耶だって女の子なんだぞ。この前だって」

「待って!その話はやめて!」

「少し前にデートしたときなんだが」

「わー!やめてやめて!」

「クレープを食べた後にほっぺにクリームをつけていたもんだから指摘したらものすごく顔を赤くしてな。それはもう可愛かったんだぞ」

「それは、その、指摘しながらも拭いてくれたからで。その」


 予想通り守からの追撃が飛んできたと思ったら、いつものだった。盛大に麻耶を後ろから撃った。なお、そんな二人は甘々な雰囲気を作り出してしまった。こうなると止まらないんだよなあ。


 目の前の景色から視線を逸らすためにふと廊下へと目を向けた。すると、篠原さんが通り過ぎて行くのが見えた。あ、篠原さんと目が合った。つい声が漏れそうになってしまって、その声をなんとかこらえる。篠原さんの方はというと、すぐに視線を俺の机に向けて、一瞬足を止めた。そして、ほんの一瞬目を見開いたかと思うと、考え込むようにまた歩き出してしまった。


 …なんだったんだ?今の?正直篠原さんが俺の手紙に何か反応をするとは思っていなかった。でも、何か思うところがあったのだろう。まあ、あとで聞けばいいか。


「あ、そう言えばさー」

「何だ?麻耶」

「トリックオアトリートー!お菓子をくれなきゃ悪戯するぞー?」

「悪戯かお菓子かねえ。麻耶相手なら悪戯されてもいいんだけど。残念、今回はお菓子があるんだなあ、それが」


 視線を目の前の甘々空間に戻すと、いつの間にか話の話題を今日のハロウィンに変えていた二人がハロウィンお決まりのやりとりをしていた。守は鞄をゴソゴソと漁って昨日俺と作ったクッキーを取り出す。


「はい、クッキーだ」

「わー!ありがとー!」

「これ昨日進に教えてもらって作ったんだよ」

「そうなんだー。進君もありがとね」

「そりゃどうも」

「いやー、普段から進君って守に料理教えてるんでしょー?」

「そうだが、それが?」

「それだけ料理出来るならモテそうだけどなーって」

「そうでもないぞ?表には見えない部分だからな。出す気もないし」

「えー?なんかもったいなーって」


 それに無言で守も頷いている。そもそも俺は料理出来るんだーって女子にアピールして意味あるのか?人によるかもしれないが鬱陶しいと思われるだけじゃないのか?


「んー、まあ何か理由があるなら私が突っ込むべきでもないかー」


 そう言い残すと、じゃあ、もうそろそろ ST 始まるからクラスに戻るねー、っと言って麻耶は去って行った。守が大きく手を振っているの横で、俺も軽くだが手を振っておく。そうして、手にクッキーの入った袋を持った麻耶は帰って行った。


 さて、そんな感じで朝の時間は過ぎていったのだがその中で少しだけ気になったこと、そして、それがなんでだったのか、その答えは案外すぐに得られた。


「すみません。瀬川君」


 昼放課の時間、廊下に出たタイミングで篠原さんが話しかけてきたからだ。


―――――――――

ST はショートタイムの略です。あれです、朝の会のことです。


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