第9話:お菓子作りと謎の手紙
「えー?明日はここ来れないの?」
「で、何するわけ?」
「友人が彼女にハロウィン向けにクッキーを作りたいらしくてな」
「で、一緒に作ると」
すると、篠原さんは何かを目で訴えだした。俺の目をジーっと見てくる。その目はどこか物欲しそうに見えた。そういえば篠原さん、ここで話すとき毎回お菓子持ってきてるような気がする。もしかして、割と食いしん坊なのか?
「もしかして欲しいのか?」
「…そりゃ欲しいよ。だって、人に教えられる程度には料理が出来るんでしょ?なら
「味はまあ、問題ないと思うぞ?」
だって、普通にレシピ通りに作るだけだからな。何回か作ったことはあるけど失敗したことはない。
「ふーん、それなら期待してるね」
いや、篠原さんの分はあまり考えていなかったんだが、そういう篠原さんの言葉にはどこか懐かしいものが見えた気がして、少し考えておこうと思った。
そして翌日。
「おっすー、進。必要なもの買ってきたぞ」
学校終わりに先んじて家に帰って必要な道具の用意をしていたところ、守が家にやってきた。玄関で向かい入れると、早速手を洗って料理の用意をする。
「材料は、っと。うん、一通り必要なものはありそうだな」
「おう。そっちが送ってきたレシピ通りのを買ってきたぞ」
守の買ってきた材料を確認すると、そこには今日作る予定のクッキー、チョコチップクッキーの材料がしっかりと入っていた。
「よし、それじゃ作るか」
俺の始めの合図によって、クッキー作りは始まった。まあ、そんな難しいものではない。バターをよくかき混ぜ、砂糖、卵黄を入れてさらにかき混ぜる。そこに薄力粉を咥えて混ぜた後、チョコチップを加える。そして、チョコチップがある程度均等になったらクッキングシートの上に成形して並べる。それを予め余熱しておいたオーブンに入れる。それでしばらく待てば完成だ。
「俺の方は出来たぞ?進はどうだ、ってなんか色々と凝ったものがあるな…」
生地作りを終えて、生地の成形をそれぞれで行っていた。どうやら守はその成形作業が終わったらしく、俺の手元を覗き込んできた。まあ、確かに俺の作ったものの中には凝った形のものが多いな。明日がハロウィンということもあってハロウィンにちなんだ形のものを色々と作ってみた。典型的な例だがカボチャとか、お化けとか、魔女帽子とか。
「まあ、焼いたときにどうなるかわからないけどな。そっちは、ってハートとか普通にあるのな」
「そりゃ作るだろ。好きな人に渡すもんだぞ?」
まあ、こいつなら作るか。守が彼女、
「そうか、まあそうだよな」
「そっちはそういうのないのな」
そう言われると、昨日の篠原さんとの約束を思い出す。そして、俺の成形したクッキーを見る。うん、数的には問題ないな。
「進?」
「ん、少し考え事。それじゃ焼くか」
そうして、家に帰ってきた直後に温めておいたオーブンの中にトレイに乗せた生地をそれぞれ入れる。そうすると発生するのが待ち時間だ。
「何か飲み物入れるが守は何がいい?」
「ちなみに何が出てくる?」
「コーヒー、紅茶、緑茶、牛乳とかなら」
「ジュースとかの類はないのな」
「まあ、飲まないからな」
「それじゃ、コーヒーを頼む」
「ん、任された」
俺はさっさと二杯のコーヒーを淹れて守のいるリビングへと持っていく。そして、机にそれを置くと、守の対面に座る。
「いやあ、手伝ってくれて助かった」
「そりゃどうも」
守のお礼に対して軽く返す。まあ、普段から料理を教えていて、その延長線だからな。その点でで見ると変わったことをしたってわけじゃない。
「いやあ、ほんといつも助かってるよ」
「どうした?そんな急に改まって」
「いや、こういうタイミングで言わないとなあって思ってな」
「あー。俺としてはそのたびに食費浮くからありがたいくらいにしか思ってないぞ」
「ふーん。まあそう思っておくわ」
なんか急に守に普段のお礼を言われてしまった。普段から言われてはいるが、改めて言われるとなるとどこかむずがゆい。料理を教える代わりにそのときの二人分の食材は守持ち、ということにしているため、料理を教えるたびに俺の食費が浮くから割と俺としては気にしてない、むしろありがたいとしか思っていないのだが、その気持ちはありがたく受け取っておく。教えること自体、結構楽しんでやってるからな。
「で、教えた料理は今までに使ったのか?」
「一応何回かはな。味は正直進と作った時と比べると俺的にはまだまだだけど、それでも、麻耶は喜んでくれるな」
「まあ、そりゃ愛しの彼が作ってくれたんなら嬉しいんじゃないか?」
「…麻耶って現役のアスリートだろ?だから味よりかは量優先なんだろ。俺もそうだったし」
そのときの守の視線は自らの脚へと向いていた。その表情はどこか暗い。だが、それも一瞬のことですぐに俺の方へと視線を飛ばしてきた。
「まあ、過去のことだから気にすんなって。それに、今の俺は麻耶第一だからな」
そう言った守は笑顔を見せる。その笑顔自体は本心からのものなのが窺える。けれど、その笑顔が出せるまでに何があったのかは、まあ今は聞かなくてもいいか。本人は気にしていないっぽいし。
「まあ俺の話はこれでいいとして、進の方は何かないのか?」
「前にも言われたがないぞ?」
「けっ、面白くないなあ」
そんな他人の色恋沙汰って面白いのか?興味がない俺としてはその気持ちがわからん。勝手にどうぞくらいにしか思っていないからな。それに、俺にはふさわしくない話だろうしな。
「ほら篠原さんとかさ、」
「クッキー焼けたみたいだから確認するぞ」
「あっ、こいつ!」
守が何か言おうとしたところでちょうどクッキーが焼けたことを告げるオーブンの音がした。そして、なんとなく嫌な予感がしたからそれを口実にして話を強制終了させた。
「うん、バッチリだな」
オーブンから取り出したクッキーは一部を除いて綺麗に焼けていた。一部、というのは何枚かは割れていまっていたからだ。なお、その大体が俺が変に形を凝ったやつだったりする。
そしてクッキーを少し冷ました後、守は材料と一緒に買ってきていた袋へとせっせとクッキーを入れていった。俺の方はというとクッキーをお皿へと移して洗い物である。
「よし、やりたいことも終わったし俺はそろそろ帰らせてもらうな。あ、余った包装用の袋は置いておくからな。それじゃまた明日」
「ああ、また明日な」
クッキーの包装を終えたらしい守はそう言い残して去っていった。なお、その時に使った包装は守の言葉通り、机の上に置き去りにされていた。
「いや、置いていかれても困るんだが?」
…そういえば、昨日篠原さんが欲しいって言っていたよな。仕方ない、一応保険も含めて二、三個は俺も持っていくとするか。そう思って俺は割れていないクッキーを守の置いていった袋に詰めて行くのだった。
そして、翌日のハロウィン当日。俺は昨日梱包したクッキーを持って学校に来たのだが、
「ん?」
下駄箱を開けるとそこに何か入っていることに気づいた。それを取り出してみるとそれは、ハートのシールで封をされた手紙だった。
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