第3話 鍛錬
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「くっ!」
私を殺す気で振るわれたナイフを紙一重で躱し刀を横に薙ぎ払うように振るう
「甘いッ!!!」
しかし振るった刀はナイフに弾かれ体勢を崩してしまう
「がっ!?」
その後に腹に向けて勢いよく振るわれた蹴りを避けれず
私は体勢を崩して吹っ飛ばされる
「弱い...弱すぎる。やはりお前はクソ虫だ。弱いのは分かっていたがまさかここまでとはな...」
教官から言われる罵倒を聞きながら頭の中で改善点を振り返る
「さて...これでお前が私に情けなく地に叩きつけられたのは128回目 最初よりはマシにはなってきてはいるが...」
教官の言っていた指導
それは教官による実践訓練
今は刀を使った訓練だ
最初は刀の振り方を教えて貰えるかと思いきやまさかの実践コース
教官は「見て盗め それが出来ないなら戦場では生き残れん」
と言っていた
だから 今 私は教官の身体捌き 武器は違えどその振り方 体術のタイミング 様々なものを盗もうと必死だ
ゲームの中だと言うのに疲労が凄い 流れる汗とそれにより肌に密着する服の不快感までが再現されている
何より一番に驚いたのは痛みだ 現実とほぼ同じの痛みが私を襲ってきている
「今 現実では無いのに疲労が凄まじいと思ったな?当たり前だ。私がここの権限を使って疲労を感じるようにしたからな」
「なるほど...ありがとうございます..教官」
「それくらい話せるならまだやれるな 行くぞ」
「YES mam!!」
「はぁ...はぁ...」
「284回目にしてようやく戦場においてまともな目付きをしてきたな」
何度も地に転がされ 常時 殺意を向けられ 苦痛に襲われ続ける
そんな状態に晒された私の思考は、価値観は徐々に変わっていった
戦場において大事な事は?
生きること?仲間との連携?位置取り?
答えは 否だ
戦場において大事な事...それは..
どんな相手であろうと捻りあげ叩き潰し細切れにするような圧倒的 殺意だ
「ッ!!」
刀を横薙ぎに振るう
「甘い!」
避けられるのは織り込み済み 返しの刃を大きく踏み込みながら振るう
「ほう?」
それも難なく防がれるがナイフ一本で勢いよく振るわれた刀を簡単に受け止める事は不可能
故に隙が生じる
そこに私は一度刀をそのまま手放し殺すべき敵にタックルをする
「最初よりは成長したな。だがまだまだだ!!」
教官は身体を上手くいなして私のタックルを受け流す
が私は地を踏み潰す勢いで足を踏み込み 手を一瞬だけ地に付け軸にし方向転換
「ッ!」
全力の殺意を込め拳を振り抜き 敵の顔面に向けて右フックを放つ
「中々だな」
その拳も止められるがその瞬間に左手に隠し持っていた砂を敵の目に目掛けて投げる
「考えたな!!」
視界をその瞬間だけ閉ざされた敵に向けて私は筋肉が悲鳴をあげる中 勢いよく岩をも砕く殺意を込めて左脚を振り抜く
「まだまだだな」
左脚を掴まれそのまま敵の体術によって投げ飛ばされるも何とか受け身を取り
手放した刀を拾う
「はぁ‥はぁ‥はぁ‥」
殺せ
敵を
私達が生きるために
溢れんばかりの殺意を!!!!!
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
「これは...」
限界を超えろ
刀を鞘に戻し居合の構えを取る
「居合か...」
持てる全てを出し切れ
人を超えろ
「なっ!?」
刀を振り切った私はいつの間にか敵の背後に移動しており
敵の右腕が切り飛ばされる
朦朧とする意識の中
最後に見たのはこちらを見て笑みを浮かべる教官の姿だった
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「はっ!」
汗だらけになった体にひたりと張り付く衣服の不快感を感じる中
「ここは...現実か」
あのときの疲労も痛みも今は全く感じない
「‥.水分を取ってシャワーを浴びたら戻ろう」
始めたときは昼ごろだったのが今は夕方
夕食はまだ済ませなくていいだろう
「遅かったな」
「申し訳ありません。教官、水分補給と汗が酷かった為、シャワーを浴びていました」
「そうか」
ゲームに再ログインした私に対し目を閉じながら落ち着いた声でそう言う教官
てっきり『遅かったな。このクソ虫 今からさっきの続きをやるぞ。覚悟しろ。』
と言われるばかりかと思ったが...
「お前に今から2つの選択肢を与える」
「選択肢?」
訓練に関係するものなのだろうか?
「一つはチュートリアルを終え、本格的にABOを楽しみに行くこと 実力は十分だと判断したからな。」
どうやらABOをやる上で最低限の実力はついたらしい
「そして2つ目はこのまま私の訓練を受け続けること」
「さぁ、選べ」
これは...どうするか
ゲーム内で経験も積みたいが教官の訓練も受けたい...
「...教官」
「なんだ」
「質問をしてもよろしいでしょうか」
「構わん、言ってみろ」
「私は...強欲ではありますが両方を選びたいです」
「ふむ...どうやら何か焦っているようだな 何がお前をそんなに動かす?」
疑問に思ったのか教官はそんな質問をしてくる
「妹の命です」
私がそう答えると
「...そうか」
「妹の治療費を稼ぐ為 私はこの世界に来ました」
「...SCSか」
どうやらすぐ何に参加する為に来たのか把握したらしい 流石 教官だ
「はい」
それに対し 私は肯定すると
「...要らぬ質問をしたな。すまない」
教官は申し訳無さそうにそう言ってきた
「いえ、大丈夫です」
「‥お前の申し出を受け入れよう」
「ッ!本当ですか?!」
「ああ、だから今日は...どうする?」
「...一度ABOの世界に行ってみたいです」
「そうか、分かった。お前がゲームにログインもしくはリスポーンしたらここに来るようにしておこうか?」
なんかさっきと比べて教官が優しい気がする...なんでだ?
「お願いします」
「分かった そう設定しておく。この後は、行くのか?」
「はい、明日 案内してくれる友人が先に見回ってみるといい と言っていたので」
「...そうか、分かった。では【メニュー】と唱えてみろ」
「YES mam. 【メニュー】」
そう唱えると私の前に青い板?のようなものが表示される
驚いてる私を横目に教官は
「そこから【マップ】【インベントリ】【フレンド】【ログアウト】【訓練所から出る】を選択出来る 」
と教えてくれた 確かにそう表示されている
「そこにタップすれば選べる 今回は【訓練所から出る】だ。」
「なるほど...」
「また、ABOの世界の街であればそこの項目が【訓練所に行く】に変更される。ここに来る時はそれを選択してくれ。また【メニュー】と言えば、そのウィンドウは出てくるから覚えておくように。」
ウィンドウ...?この青い板のようなものの名前か?
「わかりました」
それにしても便利だなこれは...
「それと各項目についての説明もしよう」
「お願いいたします。教官」
「【マップ】は周辺の地域情報が表示される あくまでも地形や自分の居場所が分かるだけだがな」
そう言いながら私の目の前でマップを展開してくれる教官
「予想以上に立体的です...」
「SCSの際もこの機能は使用可能だ。よく覚えておけ」
「YES mam」
「次に【インベントリ】 これは自分の持ち物を入れておける便利な機能だ マガジン 回復 グレネード 銃等の武器等 かさばるものを入れられる 有効活用していけ」
予想以上に便利だ 持ち物によっては移動が大変だと思っていたがその心配は必要無いようだ
「YES mam!」
「次に【フレンド】これは現実で仲良い者 ゲーム内で仲良くなった者となる事が多い機能だな フレンド専用のチャットやフレンドが今ABOに入っているかどうかの確認も出来る。フレンドになるには直接会ってフレンドになるか、プレイヤー毎に割り振られたフレンドコードを入力し、申請を送って承諾されればフレンドだ。」
これで凛花とも合流が出来るようになるのか 何度も思うが本当に便利だな
「そして最後に【ログアウト】だ これは単純だ ABOから現実に戻る為に使う ただし【訓練所に行く】と同様 街でしか使えない 気をつけておけ」
なるほど...緊急回避の為にログアウトするとかも考えたが...流石にダメか
「機能の説明はこれでいいだろう....次はABOの世界の詳細について説明する。ちゃんと聞いておけ」
そういえば凛花からは対人戦主軸のゲームとしか聞いてなかったな
「YES mam」
「ABOでは主にABOで扱われる通貨 ゴールドを稼ぎ、そのゴールドを現実のお金に変えたりゲーム内で武器を新調したりするのに使う」
現実のお金に変えられるのは聞いてたが改めて聞くと本当に夢のようだな
「その稼ぎ方は大まかに2つ 1つ目はゲーム内にある街 の外に生息する【獣】と呼ばれる生物達を倒すこと」
...ゲームの世界だしスライムやゴブリン ドラゴンとかだろうか?
「次に...外で同じプレイヤーをキルしドロップしたゴールドを得る事だ」
ふむ...なら両方こなせば...得られるゴールドは多いだろうな
「一応言っておくがゴールドと現実のお金の変換レートは100:1だ こっちの100ゴールドが向こうの1円となる」
...流石にそうか 1:1だったらあまりにも都合が良すぎる
「プレイヤーはお前と同じでちゃんとアーツも使ってくる そのことを忘れるな。」
教官との訓練ではあまり使わなかったアーツ
教官が選んだのは 【脚力強化】【動体視力強化】【反射神経強化】【身体強化】【魔纏】の5つだ
元は強化系×4と魔法×1の予定だったのだが...
魔法のアーツも使ってみた時の...あまりの酷さに教官から同情の目を向けられ【魔纏】へ変更となった
【 魔纏】はMPを消費して魔力を武器や身体に纏うらしい この状態だと身体なら魔法や銃弾を防げたり 武器なら魔法を弾けたり銃弾を弾きやすくなるらしい
*MPとはアーツを使う際に消費するゲージの事です
【脚力強化】【動体視力強化】【反射神経強化】この3つはその名の通り書かれている部位もしくは人の機能を強化する
【身体強化】 上記3つがあるのに何故持つのか
私も疑問に思い教官に質問したが教官曰く強化の倍率が違うらしい
それに伴い消費するMPも違うのだとか
例えば【身体強化】は身体と人間の機能全てに強化が掛る代わりに倍率は1.3倍
【脚力強化】とかは脚のみに強化が掛かるので倍率は1.7倍
といった具合らしい
一応教官との訓練前に使ってみたのだが恐ろしく強化された身体は凄かった
幸いなのがそれを扱えない みたいなのは特にない
教官曰く 普通のプレイヤーなら慣れるのに時間がかかるが 私は特に問題無いらしい
何故だ?
そんな質問を聞く前に教官との訓練が始まってしまった訳だが...
「教官 質問をしてもよろしいでしょうか?」
「構わん」
「教官との訓練前 アーツを使った際 普通のプレイヤーなら慣れる必要があると言っていましたが何故 私は...」
「....この世には脳のリミッターを外すことが出来る人間が何人か居る」
脳のリミッター?
「異常なほど 知恵が回ったり 異常なほどの怪力を持っていたり...そういう奴らが居る その脳のリミッター解除の影響はABOの世界にも出る」
つまり...
「現実での能力がこちらにも反映されてると?」
「そうだ。勿論 運動が苦手だとかそういう人への補正はされているが 私を含めたチュートリアルを担当する者によって問題ないと判断された人物は補正が無い...それに加えお前は脳のリミッターを外す事が出来る人物と私は判断した。」
「もしかしてそれって...」
私は教官との訓練を思い出す
最後の訓練の時 教官の右腕を切り飛ばし 力尽きたあの瞬間
今思うとあの時だけは教官の動きが遅くなってるように見えた
「脳のリミッターを外せるようになる理由は主に2つ...1つ目は生まれつきだ 幼いのに怪力だとか幼いのに聡明だとかは大体これだ だが中には無意識にリミッターを戻し それ以降の人生で脳のリミッターを外す事は無かった者も居るがな...」
「...2つ目は?」
「...極度の生存本能 殺意 等といったものから無意識に脳のリミッターが外れることだ」
確かにあの時の私は...教官を殺すべき敵と認識し 妹の命の為におぞましい殺意を向けていた
「お前の場合は妹の命を救う為と倒すべき敵への殺意 そして私が何度も遠慮なく叩き潰していたのもあるだろう」
...つまり教官無しでは私はその土俵に立てず脳のリミッターを外した奴らに蹂躙されている可能性があったのか...
「...ありがとうございます 教官」
「なんの事だか分からんな それで続きだが...そういった脳のリミッターを外した者は様々なフルダイブゲームに存在する このABOも例外では無い...SCSに挑戦するなら気をつけることだ」
「...肝に銘じます」
「それと脳のリミッター解除だが...あまり多用しすぎると現実への身体にも影響が出る 下手したらお前の妹以上の重症を負う可能性もある」
諸刃の剣と言うやつか...
「それに意図して外すものでもない そんなものを教えたらお前はどうせ多用して倒れるのが目に見える 」
「...分かりました ありがとうございます 教官」
「...それと対人戦の時 ダメージ判定は現実の身体と同じで
なるほど それは気をつけなければ...
「それと仮に手榴弾等で脚や手を吹っ飛ばされた場合はかなりのダメージを負うが時間経過で復活する 時間は3分だ 覚えておけ」
魔法 銃以外にも手榴弾にも気をつけないといけないか...四肢のどれか吹き飛ばされるだけでも致命的だからな
「YES mam」
「これで私から教える事は特に無い 何か質問はあるか?」
「いえ、特にありません」
大体の疑問は教官が説明してくれたので特に無い
「そうか...それとABOをやる上で知っているとは思うがABO世界での身体...アバターはランダムで生成されるからな ABOを楽しんだら1度戻ってきてそのアバターに慣らすのも良いだろう」
「ふぇ?」
え?それ私聞いてないのだが...?
一方その頃
「あ、そういえば しおりんにアバターの件伝えるの忘れてた...ま、しのりんならどうにかするっしょ!!」
この後 静かに怒った汐里にゲーム内で説教されるとは思わなかった凛花であった
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