第5話

「ただいま〜」

母が帰ってきた。

「ママ、おかえり」

外気で冷えた母に、ぎゅうっと抱きつく。母は、いつも通り小さく咲いながら抱きしめ返してくれた。

「お母さんおかえり、今日はサンマごはんだって」

リビングで弟が出迎え、深皿を示す。ラップの向こう側には、色付きご飯の上に鎮座する3本のサンマ。なかなかシュールな光景だ。

「……」

母は、目を見開いてサンマご飯を凝視する。こちらもなかなかシュールw

「なんか、ここら辺の郷土食みたいだよ。地域学習の教科書に書いてあったもん」

「ほんと?」

怪訝そうに視線を向ける母に、弟は頷いてみせた。

「とあるおじいさんによれば、子供の頃はサンマが手に入ったら必ずサンマご飯にしてました、ってさ。サンマとご飯の相性はいいし、結構美味しいと思うよ。ましてやこれ、」

彼はサンマの下の色付きご飯を指差す。

「味の濃い炊き込みご飯みたいなもんだし」

そうこうしているうちに父も帰宅し、食事が始まる。

「今日はサンマご飯だよ〜」

弟の言葉に、父は一瞬目を見開いた。

「サンマご飯かぁ。昔、お袋がよく作ってくれたやつだ」

嬉しそうに強面の顔を崩した父は、早速茶碗に箸をつける。

父は料理をしない人間が偉そうに批評するのは言語道断だ、と常日頃豪語している。

だから、食事に対して感想を言うことはほとんどない。

「……」

無言だ。

けど、その表情はたしかに美味しさと懐かしさに緩んでいた。

「いただきます」

白い湯気をほかほかと上げるご飯を、そっと口に入れる。

瞬間、豊かな自然の香りが鼻を突き抜け、全身が歓喜に震えた。

松茸の、上品で主張しすぎない美しさと、お醤油の香ばしさ。

そして、柔らかくほぐれてゆくサンマの身と、それを受け止める土台のお米。

全てが、完璧に調和していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る