第6話
下校前のSHR。
「来週はテスト期間だから、早く登校してきたら静かに勉強してろ。いいな、間違っても騒ぐんじゃねぇぞ。それから、先日目撃情報があった不審者について――」
担任の死角で、悠々と読書を堪能する。
読書はこの世の極楽である! と言ってももはや過言ではない。
「起立、さようなら」
周囲は一気に喧騒に包まれた。
教室の一角から響いてくる甲高い笑い声に、こらえきれずに眉を歪める。
品性の欠片もない行動は、私が世界で最も嫌悪しているものの内の一つだ。
校舎を出て空を見上げると、暗い色合いの雲がどんよりと立ち込めているのが目に入る。
「⋯⋯洗濯物、取り込んどかないと⋯⋯」
帰宅するまでは雨よ振らないでいてくれ、と無駄な祈りを天に捧げた。
鼻先に、はるか上空から落ちてきた雫が叩きつけられる。
「急がないと」
校門から次々と放出されてゆく生徒たちの間を縫い、私は乾いた砂利を蹴って駆け出す。
数キロ西側にある山々の輪郭は、振り始めた雨によって徐々にかすみ始めていた。
帰宅して洗濯物を取り込んでいると、地面を打ち付ける雫の立てる音が妙に軽いことに気がついた。
「――雪、だ⋯⋯」
そっと伸ばした手に、繊細で儚いつくりをした純白の結晶が舞い降りる。
それはさっと端から溶け、一滴の水になった。
結局、どんなに形を変えても雨は雨でしかない。
雪は一見美しいように感じられるが、そんなものは幻想でしかない。
日常的に雪で足を濡らし、霜焼けとアカギレだらけになっている一現地人からすれば、雪は液体のぬるい雨よりずっと厄介な、固体の冷たすぎる雨だ。
今年もまた、雪との終わりなき戦いが幕を開けた――。
ブルリと身震いした私は、洗濯物の入ったかごを暖かい家の中に入れた。
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