第2話 井戸を覗いてはいけない
俺は一人きりで祖父母の家の庭を歩いていた。
ど田舎の夜である。明かりなどほとんどなく──それでも敷地内に光源がまったくないというわけでもなく、俺は慎重に歩を進めつつ、
「──あけて」
女性の声が聞こえたのは、そんなときである。俺はきょろきょろと見渡したあと、「気のせいだよな?」と自問して、何事もなかったかのようにその場を去ろうとした。
「──あけて、あけてください」
しかし
好奇心と警戒心の間で揺れる──が、好奇心が
井戸である。かなり古く、
「──あけて、あけてください」
どう考えても
無視して立ち去ろうとした──が、井戸の中の女性(仮)はそれが見えているかのように、すぐさま引きとめにかかってきた。
「アイドルの○○○さんにソックリって言われるんですよね、わたし」
あの国民的アイドルの○○○だと!?
俺は蓋を
「わたし裸なんです。それにウエスト59センチでFカップです。
触って良い……だと?
Fカップのおっぱいの触り方なんて学校で習っていないし
俺は今度こそ蓋を
「乳首はピンク色です」
ピンクかぁ。
正直、その言葉には心を揺さぶられた──が、やはり命を賭けてまで見るようなものではないと自制した。こんな言葉に釣られる奴はよほどの
「あ、殿方の前で裸は良くないですよね。服を着ることにします。あなたの好きそうなものを着ますね」
コスプレで誘惑する作戦に切り替えるか。まあ、なにを着たところで、これまでにいくつもの誘惑に耐えてきた俺の興味を引くことはできないだろう。
「うんしょ、うんしょ。着替えているので少々お待ちください」
誰が待つか。これ以上は話を聞くまでもない。俺は井戸から離れるように歩き出して「競泳水着って着るの大変ですね」彼女の声にすぐさま振り返って井戸の蓋を全力で
こうして俺は死んだ。
【死因:井戸底への転落死(直接の死因は肺からの出血による窒息死、つまり溺死)。なお彼が死ぬ前に幽霊さんの美しい
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