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「はい。確かに受け取りました」

「有難うございます」


図書室に本を持って行くと、図書委員が貸出カードに返却の判を押した。

僕は御礼を言った後、本を預けて図書室から出る。


昨日の放課後、彼にキスをしようとした。

唇を近づけて、あと数センチというところでピタリと止まる。


「……やっぱり、出来ない」


彼から顔を離して俯いた。


いくら催眠術に掛かっているからと言って、僕の事を好きにさせたからと言っても、彼には好きな人がいる事に変わりはしない。


それに、僕は見てしまった。


彼が、、好きな人の話をしていた時に見せた、今までにない程の優しい笑顔を……。



「ねぇ、夕凪くん」

「はい……」

「君は、僕の事好き?」


『はい』と答えた夕凪くんを僕は強く抱き締めた。


「有難う……僕も、大好きだった」


彼から離れて手を彼の前に差し出した。


「これから催眠術を解くよ。君は今あった出来事を全て無くし、普通に戻るんだ……」


彼の目を閉じさせて自分の指をパチリと鳴らした。


「今までありがとう。それと、卑怯な真似してゴメンなさい」


最後にそれだけ伝えて、催眠術を終わらせた。


「───あれっ?俺……今まで何を、、」


いつものように彼の独り言が教室から聞こえてきたら、僕は廊下を歩きだした。

彼に近づきたくて、好かれたくて催眠術を使って彼を操ってみたものの、やはり最後の最後まで意気地無しだった僕は、今まで通りの生活がお似合いなのだと改めて思い知らされた。


いくら彼を好きだからと、無理矢理手にするなんてのは間違いだ……。


そんな事を今更ながらに反省した。


───そして今、図書室を後にした僕は、教室へと向かう廊下を歩いている。

その途中、友人達と歩く彼を見掛けて立ち止まった。

彼は、友人達と楽しそうに談笑していて、此方に気づいていないようだ……。

僕はそんな彼を横目に、一人、教室へと足を運んだ。

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