6

今日も虚ろな瞳で僕を映した彼の膝に跨がり、顔を見つめた。

整った顔に手を這わせて輪郭をなぞる。


「……君、好きな人がいたんだね」


そう訊ねても、彼から返事が帰ってくる事はない。

顔から手を離して彼の肩に腕を回す。


「羨ましいなぁ……君に好かれる人はさぁ?」


彼の耳元で愚痴るように囁いて顔を擦り付けると、彼の匂いが鼻をくすぐる。


〈あぁ、彼を手放したくないなぁ……〉


そんな思いが頭を駆け巡る。

このまま彼をずっと独占出来たら良いのに……。


どうせ彼の好きな人は僕じゃない。

そもそも、クラスメイトの一人としか認識されてないだろうし、男の僕を好きになるはずがない。


彼も男だし。


かといって、僕が彼に告白したところで、彼に振られて挙げ句の果てには気持ち悪がられ、嫌われるのがオチだろう……。


「……いっそのこと催眠術で僕を好きにさせちゃおっかな?」


顔を見つめて告げるけど、彼はうんともすんとも言わなかった。

催眠術を使えば、僕の事を好きにさせるのは用意だろう。

だけどそれは一時の話だ。

ずっと保つには時間が掛かる。

だけど明日には本を返さなければならないし、同じ本を借りるには、返却日から一週間経たないと借りられない決まりになっている。


「あーあ。ホントに残念だ……今日で最後か」


彼の唇を指先でなぞる。


あぁ、虚しい……。


いっそのこと手を出してしまえば、なんて邪な考えが頭を過ぎる。


大好きな夕凪くん。


誰にも取られたくない。


だったら────



「キスくらいなら……良いよね?」


彼の唇に顔を寄せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る