2

翌朝。


登校してきたクラスメイト達の声が飛び交う教室で、僕は一人、あの本を読んでいた。

昨日の放課後、教室で彼に催眠術を掛けた僕は、彼に僕を好きだと応えさせた。

震えながらも彼に手を伸ばし、彼を抱き締める。

初めて彼に触れた事で、心臓は破裂しそうな程に脈を打ち、なんとも言えない高揚感が僕の背中を震わせた。

あの感動を言葉にするなら、もう死んでもいいと思える様な感覚だろうか……。

それほどまでに、彼に触れられる事は僕にとってかなり貴重な出来事だった。

今でも手に彼の感触が蘇る。

普段けして僕からは触れられない、高嶺の花みたいな存在の彼の感触を思い出すだけで、たまらなく興奮した。

そして、そんな疚しい気持ちを胸に、僕はまたページを捲る。

色んな催眠方法が載るこの本は、僕の欲望を掻き立てた。


〈次はどんな事をしようかなぁ……〉


思わずフフフと口に出して笑うと、周りで見ていたクラスメイトが、引き気味に僕を噂していた。


「ヤダ……笑ってるよアイツ、不気味~」

「気味悪い奴だよなぁ……ホント」

「キッモ!そして怖ッ」


そんな悪口は聞こえない振りをする。


暫く本を読んでいると、不意に背中を叩かれた。

ビクリと肩を跳ねさせ振り返ると、なんと背後には夕凪くんが立っていた。


「よぉ、朝比奈~!なぁに読んでんの?」

「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、夕凪くん!?」

「はよー。つか、ドモリ過ぎだろ!」


アハハと笑いながらまた背中を叩く彼。

僕は嬉しさと、恥ずかしさで俯いて口を噤んだ。

昨日の今日で、彼の顔が直視出来ない。

ましてやこんな近い距離なんて……抱き締めた彼の感触がまた蘇り、躰が震えて顔が紅くなる。

すると彼は、僕の手に持つ本を見て呟いた。


「おっ!その本お前も図書室で借りたのか?」

「えっ、、あ、うん。そ、そうだケド……」

「それさぁ俺も前に借りて見た事あるけど、結構面白いよなー!」


笑顔を向けてくる彼に、うん、と返事をしようとした時、クラスメイトが彼の腕を引っ張った。


「おい、夕凪!あんまりソイツに絡むなって……!!」

「そうだよ夕凪くん。朝比奈、、くんは今読書中なんだから!」

「へっ……?」


あからさまだった。

僕から引き離そうとしているのが見て分かる。

夕凪くんは、あっという間にズルズルと引っ張られていく。


「悪かったな~朝比奈!」


手を振りながら連れて行かれる彼を見つめながら、僕は眉を顰めた。


〈なにも、無理矢理引き離す事ないだろ……イジメかよっ!〉


内心で悪態を吐きながらも、また本に視線を戻す。


「今に見てろよ……クソ、夕凪くんを絶対……!」


ブツブツと譫言の様に呟きながら僕は一人、執念に燃えていた。

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