第16話

何とか無事に用事を済ませ、郵便局を後にした。


帰り道を半分ほど戻った辺りで、前を行く若い母親と2才位の女の子の親子連れに追い付く形となった。

女の子は、まだ危なっかしい足取りで歩き、歩くとキュッキュッと音の鳴る靴を履いていた。


それは、懐かしさをおぼえる音だった。かつて、私がその女の子位の年齢だった頃、祖父母の住むこの地を訪れた時、私用に用意されていた、キャラクターの絵の付いた赤いスリッパの音と良く似ていた。用意されていたのはスリッパだけでなく、子供用の小さな茶碗と箸もあった。まだ幼かったその頃の記憶はわずかだが、学生になって夏休みに祖父母の家へ遊びに来たとき、もう使われなくなった、スリッパは下駄箱へ、茶碗と箸は食器棚へ、いつでも現役で出番を待っているかの様に、並んでいたのを見て、大切にされているんだな。昔も今もと感じたのを思い出した。


そして、郵便局が昔住んでいた地区の郵便局とダブって見えた事。女の子のスリッパの音から、祖父母の大切にしまってくれていた品物と想い。それが重なり、束の間昔へ思いを馳せ、人には歴史があり、モノ達にも記憶と扱う人の想いが宿っているんだと感じ、女の子は私にスリッパと茶碗と箸の存在を思い出させる為に、わざと靴をキュッキュッとならして歩いていたんだと思えて、温かい気持ちになったのだった。

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