近所の風景

第15話

通い慣れた職場、落ち着くはずの家の中で、次々と起こる“おかしなこと”。それは広がりをを留める事無く、家の近所も例外では無かった。安心出来る場所は何処にも無いかの様に思えた。


ある日、郵便局へ行く用事が出来た。最寄りの郵便局は、歩いて片道20分。ウォーキングには丁度良い距離で、歩き慣れた道だった。

家を出発して間もなく、T字路がある。そこに差し掛かろうとしたところで“おかしなこと”は起こった。T字路を、こちらへ向かい曲がって来た黒の乗用車が忽然として姿を消したのだ。そこに横道や、車庫のある家は無い。良く知った道だ。その車が視界から消えたのとほぼ同時に目に入ったのは、一瞬こちらを見て走り去って行く黒猫だった。「車が猫に変わった」そう見えたのは、気のせいだと思いたかったが、車も猫も居なくなった道路をいくら眺めても答えは出なかった。


自分の考えている事が周囲に筒抜けになるサトラレ状態が続いている私は、出来るだけ人と出会いたくなかった。幸い、他の歩行者に会うこと無く郵便局までたどり着いた。しかし、今度は郵便局の様子がいつもと違っていた。


郵便局の中は、何故かキラキラと光っていて、目がチカチカした。そして、壁の掲示物がぼんやりと二重に見えた。良く見ようとすると、いつも通りの掲示物に見えたが、視線を反らすと別の文字が見える。伝票に自分の住所を書き損じた時、読めそうで見えなかった掲示物の、二重の文字に焦点が定まった。「〇×郵便局」そこには、子供時代を過ごした、引っ越す前に住んでいた地名が書かれていた。私の持っていた通帳は、その引っ越す前の土地の郵便局で作ったものだった。私が今の住所を書き間違えたから、郵便局が昔の郵便局に変わってしまいそうになったと思ったが、同時に懐かしさも感じ怖さや不安、嫌な気持ちにはならなかったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る