サトラレ
第12話
仕事に行けず休職をしていた頃、私は殆どの時間を家の中で過ごし、テレビを見ていた。テレビを見ている間は、平穏だった。しかし、大津波のニュースを見て以来、様子が変わった。
最初の異変は、ニュースキャスターが私に話しかけているように聞こえて来た事だ。いつしか、私は頭の中でキャスターの言葉に返事をするようになっていた。何故か、会話は成立しており、それが、私の考えがキャスターに伝わっているという、確信へとつながった。
次の異変は、ニュースの内容だった。ニュースの内容は、私の経歴を伝えていた。その理由は、察しがついた。あの、エスカレーターの前で感じた役目についてだ。「私は、病気の人達と沢山逢うという事が、一向に出来ていない。病院という職場へ行かないという罪を犯している。その罪が許されるものかどうかを、報道されているんだ。」そう、思った。
具体的に例を挙げると、列車の脱線事故のニュースがあった。列車がマンションの一角に突っ込み、大勢の死傷者が出た。この時、列車の脱線は、私が職場内の4年目の異動でICUを選択したのが間違いで、日々の業務のスピードに勉強が追いつかず、鬱状態になり、結果休職をしたその事を、事故になぞらえて報道されていると感じた。
でも、心の半分では、これは事故で実際に、死傷者も出ている大変な事だ。乗客ひとりひとりの人生の重大事で、私の過去を報道されているなんて感じるのは、不謹慎だ。とも感じ、誰にもテレビの異変を打ち明ける事は無かった。
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