日常編
初期症状
第9話
さて、職場での環境を“おかしい”と感じ始めた頃、日常生活はどうなっていただろうか?「空気が重い」と感じる症状こそ、職場内に留まっていたが、職場外の生活の中でも“おかしい”ことは増えて行っていた。
まず感じた違和感は、テレパシーの様に直接頭の中に聞こえてくるコトバ。
ある日、友達とショッピングセンターで待ち合わせをした。約束の時間より少し早く着いた私は、待ち合わせ場所の3階エスカレーター前に立っていた。向かいの柱には、壁時計が時を刻んでいた。
そこは、人通りの多い場所だった。最初は、意識しなかったが通り過ぎる人達がすれ違いざま口々に「カワイイ」と言っているのが聞こえてきた。
ヒソヒソ囁くのは
あの人?この人?
クスクス笑っているのは
あの人?この人?
だんだん、「カワイイ」が自分に向いているコトバだと思えて来た。直感だった。
そして、職場で感じていた感覚が思い出された。天界(というものがあるとして)と、人間界の境目が何らかの理由で崩れ、ふたつの世界が重なり合い、天界人が人間界に身を置く為に、人間の体を借りて重なって存在しているという、あれだ。
そのダブルの世界の中で、私は言ってみれば、天界の存在を体感し始めたばかりの、生まれたての存在だった。それで、生まれたばかりの新しい存在の品定めを含め、大勢の天界人達がが顔を見にやって来ているのだ。その感想が「カワイイ」。その意味は、生まれたての赤ん坊に向かって感じる可愛らしさ、まだ何の仕事ができるわけではないが、その存在だけで大人の微笑みを誘う存在。
生まれたての天使への期待と祝福のコトバ。それが「カワイイ」。祝福の暗号。そう感じたのだった。
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