戦線離脱
第5話
翌日も、空気の重さ、カウントダウンの死神は消えることはなかった。その現象を、「何かがおかしい」と感じながらも、理由や解決策へ思いを巡らす間もなく、途切れることのない目の前の患者さんの対応、業務に追われていった。
そうしながらも、更に追い打ちを掛けるかのように「おかしなこと」が、次々と起こったのだった。まずは、頭の中で思考が止まらなくなった。連想ゲームのように、次から次へと単語やイメージが浮かび、そのイメージに従わなければ悪い事が起こる気がした。例えばメモをとる“紙”は“神”だから大切なもの、ハサミで切ってはいけないなどだ。そして、その“紙”に書いた文字は、黒字は確定、青字はノーマル、赤字で名前を書くとその人の寿命が縮む。
そんな、自分の頭の中だけのマイルールが増えていく中で、事件は起きた。
それは、いつものように掛かってきた電話を受けた時だった。電話の内容は「Aドクターの診察の予約変更をしたい」というシンプルなもので、対応は希望変更日時を聞いて、ドクターに確認して可能かどうか返事をするという、やり慣れた作業だ。メモを取りながら、その字を見て息がとまる気がした。そこに書かれた「Aドクター」という文字は赤字だった。
その瞬間、私の脳裏には「Aドクターを殺してしまった。診察はどうなる?Aドクターの診察の予約を受けても良いだろうか!?」と浮かび、受話器を握りしめたまま返答が出来なくなり、異常を感じた他スタッフが電話を代わって対応をしてくれたのだった。
私は、丁度その場にいた外来師長に、脈を取られ少し休憩するように言われた。放心状態に近い私は、その言葉に従った。休憩室で休んでいる間も、空気の重さによる圧迫感は続いていたが、いくらか冷静さを取り戻すと、仕事に戻ろうと思い、師長へ報告に向かった。途中、動悸がして歩けなくなった。師長から、今日はタクシーで帰宅するように言われ、同僚が忙しく働く現場から離脱し、早退したのだった。
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