日常業務

第4話

年末年始明けの外来は、普段より患者さんが多く忙しかった。


各診察室へのカルテ運び、他科受診との連携、退院指導、入院案内、検査説明、注射や点滴、インシュリンの物品渡し…etc.

カルテ運びひとつとっても、違う診察室に間違えて持って行ったら、只でさえ長い待ち時間が更に延びて患者さんに迷惑がかかってしまう。


しかし、スタッフの数は決まっている。どんなに仕事が多くても、優先順位を考えて、一つずつ確実に行っていくだけだ。決して難しい事ではない。


だが、その難しくは無いはずの業務をスムーズに行うのが、徐々に困難になっていったのだった。



まず始めに感じた違和感は、空気の重さだ。これは、俗に言う気まずい雰囲気の時などに用いられる『空気の重さ』ではなく、頭上からの圧迫感、重力が何倍かになった感覚で、診察室へカルテを…、検査室からレントゲン袋を…、と移動をする事が重労働になり、心拍数が上がった。


次に始まったのが、カウントダウンの感覚で、患者さんの頭の上に死神が付いていてカウントダウンをしているのでだ。例えば、インシュリン物品を患者さんに渡すとき、そのカウントがゼロになる前に、正しく渡し終わらないと患者さんの魂の寿命が減っていくのだ。間に合わなかった時、患者さんの目の下にはくまが出来、見るからに具合が悪そうに見えた。しかし後ろには、これまたカウントダウンの始まった次の人が並んでいるので、即次の対応をしなければならない。


空気の重さの圧迫感も相変わらず続いている。


一日の業務が終わった時は、身体的疲労感に、カウントダウンが間に合わなかった何人かの患者さんへの罪悪感も加わり、心理的にもヘトヘトだった。

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