第4話 第一回魔法少女説明会

 『古鳥ことりひびき先輩』

 彼女は私と同じく魔使共同学園の生徒で、私よりも1つ上の二年生の先輩。

 と、目の前の彼女はそう名乗っていた。

 昼間の廊下での出来事について謝ろうと思い、そのことについての話題を出したが本人はあまり覚えていない様子だったので、私は口をつぐむことにした。

「いやぁ、リアルにビックリしたよ。同中の後輩がまさか襲われたとはね~結界内でも弾かれてないからマジテンパったわ~」

 ひびき先輩はフラペチーノをストローで混ぜながら言う。

 フラペチーノと言う単語から少し察しがつくだろうが、私達は現在、とある町のカフェに居る。

 あの後、ひびき先輩に腕を引かれるままここに来てしまったのだ。

「えっと、ごめんなさい」

「ん?あーし別におこじゃないけど」

 いつもの癖で謝ってしまう私をひびき先輩は不思議そうに見ている。

 なんだか目を合わせるのが怖くて、おしゃれなカフェのフローリングをただ眺めていた。

 悪い人じゃなさそうなのに、やっぱり年上で派手めな人となると謎の威圧感を感じてしまう。

 再び会話が始まったのはおよそ5分後だった。

「さーて、そろそろ説明に移らなきゃね!長ったるいし何度もするの正直メンドイから耳の穴かっぽじってよーく聞きなさいよ?」

「は、はい!」

 ひびき先輩はそう言うと、スマートフォンの画面を私に見せてきた。

 可愛らしいイラストと共に丸い手書き風のフォントで『第1回魔法少女説明会』と貼り付けてある。

「あの、これは……」

「いざという時に作っておいたスライドショーよ、こう言うのあった方が分かりやすくない?」

「……前々から作っていたんですか?」

 私がそうひびき先輩に問うと、ひびき先輩は得意気に腕を組んだ。

「魔法少女となると、常に用意周到でなくちゃいけなくなるのよ」

 ふふん、と笑みを浮かべるひびき先輩。

 私は「そうなんですか」と、中身のない返事をすることしかできなかった。

 なんだか毎度の如く、やりたくない事をまたやらされかけている気がする。

 ここは丁重にお断りさせていただいて、帰らせていただくことにしよう。

 そう思い私は席を立とうとしたが、ふと、ひびき先輩の表情が目に入る。

 ひびき先輩の表情は先程の得意げな笑みとは違い、なんだか楽し気に微笑んでいた。

 そんな顔をされては、黙って帰るのもなんだか気が引ける。

 話を聞くだけ、話を聞いたらすぐに帰ろう。

「まずは、あの変なバケモンについてね」

 ひびき先輩の手入れされた綺麗な長い爪が、スマートフォンの液晶にコツンと当たると、スマートフォンの画面が切り替わった。

「イラストはイメージ画像だけど、まぁ、実物を見たし写真なんかいらないでしょ」

「ま、まぁ……そうですね」

 イメージ画像として貼り付けられていた画像は如何にも悪そうな魔女や怪物のイラストだった。

 イラストの絵柄のせいか、画像がとても可愛らしく見える。

 あんなにおぞましいくるみ割り人形より、これが敵だったらよかったのになんて思ってしまう。

「で、まぁ、こいつらが街で暴れに暴れるわけよ。建物を壊したり、事故を誘発させたり、街が大パニックな訳。そこで、あーし達魔法少女の登場なの」

「魔法少女……」

「そう、魔法少女って言うのは『ステッキ』に選ばれた少女達のことを指す。ちな、これがステッキね」

 そう言って、ひびき先輩は青色の玩具の様なものを取り出した。

 短めの棒状のもので、上は大きなハート型の輪になっていて、その中心にもハート型の宝石が取り付けられている。

 中心には大きめなリボンがついていて、本当に絵に描いたような魔法のステッキであった。

「これを使って、魔法少女の姿に変身するの、すると特別な力"魔法"が使える様になる。あーしの場合は飛行魔法、空を自由に飛び回れるのよ!」

 飛行魔法……なるほど、だから魔法少女の姿をしていたひびき先輩は翼が生えていたのか。

 「魔法」と言うワードのファンタジー感と、それを実際に目撃してしまったことの現実感が混在する。

 信じられない、信じたくないのに、この現実が認めろと私に訴えかけてくる。

 そんな気分だった。

「もちろん、それだけじゃない。ステッキは武器に変化して、おまけに身体能力も格段に上がる!でも、その代わり……化け物達を倒す使命を課せられるのよ」

 先程まで明るかった声のトーンが一気に下がり、冷静な声色へと変わった。

「……警察や自衛隊には頼めないんですか?そ、そんなことが起こっていたら、国で問題になってもおかしくないんじゃ」

「できたらもうやってるわよ、できないから今こうなってるの」

「できない……?」

 ひびき先輩は机に両肘を立て、両手を口元に持ってきた。

「……見えないのよ普通の人には」

 "見えない"それは、見ようとしても姿を目視することができない物理的なものなのだろうか。

 はたまた、見ようとしても目を向けられないとかの比喩的表現なのだろうか。

 恐らく、今回の場合は前者であろう。

 しかし、見えないとはどういうことだろうか?

「でも、ひびき先輩……私はしっかりと見えていましたよ」

 そう、私はあのくるみ割り人形が見えていた。

 おぞましい、その姿がしっかりとこの目に映っていたのだ。

「そうなの。あーし達、魔法少女は役割上見えていて当然。対して、いなばちゃんは普通の一般人、見えていない方が当然。でも、見えていた。こいつらが。それに……」

 ひびき先輩は椅子の上で「ぷぅぷぅ」といびきのようなものをかいて眠っているウサギさんの方を見た。

「アンタに、ぷぅ子が見ているのも不思議なワケ」

「ぷぅ子……?」

「ぷぅ子ってのは、このウサギの名前よ。かわいいっしょ」

「そう……ですね」

 ひびき先輩はニヤニヤ笑いながら、そう言う。

 かわいい……のか?いや、感性は人それぞれだからね。

 「ネーミングセンスが絶望的すぎる」だとかそう言うことは言わない様にしよう。

 きっと、この名前にも凄い意味があるのかもしれない。

「それじゃあ、なんでこの……ぷぅ子?ちゃんが廊下に飛び出した時、騒ぎが起きていたのですか?」

 私はひびき先輩にそう問う。

「見えなくても実体がないとは限らない。ぷぅ子もこいつらだって、見えないだけで実体はある。例を出すと、ぷぅ子はあの時お構いなしに突っ込んでたから人にぶつかったり廊下のもの倒したり、それで実体がないから騒ぎが起っていたのよ」

「なるほど……」

「つまり、アンタはイレギュラーなワケ、そこであーしは考えたのアンタには魔法少女の才能があるって」

「才能……」

 そう言われると、なんだか断りづらい。

 それに、なんで私なのだろう。

 こんな私なんかよりも、適任がいるんじゃないかって……そう思ってしまう。

 でも、しっかり断ろう。こんなこと、今の私なんかにはできない。

「いなばちゃん、あーしと共に戦ってほしい。2人でこの街を守る英雄ヒーローになりましょう!」

 ひびき先輩は手を取り、私をまっすぐ見つめながらそう言った。

『英雄』それは、私が今も憧れている存在の名前だった。

 なりたくてもなれなくて、きっとこれからもなれっこなくて……。

 でも、機会さえあれば、そうなれると、変われる自分に言い聞かせていた。

 確かに望み通りにはなったけれども、こんな大事に巻き込まれたいとは言っていない。

 しかし、こんなチャンス次はいつ来るのか分からない。

 でも、きっと無理だ。こんな大切な役目に私なんかが居たら、足手まといになってしまう。

 彼女の迷惑になってしまうのなら、私はこのチャンスを捨てる。

 だから私はひびき先輩に言った。

 ちゃんと、言わなきゃ……自分の口から、はっきりと自分の言葉で。

「ごめんなさい、私には……できません」

「へ?」

 ひびき先輩は拍子抜けした様な声をあげる。

「さ、才能があるって、褒めてくださったのは……凄く嬉しいです。でも、わ、私なんかに務まらないと思うんです。ドジだし……弱いし……この街がひびき先輩の様な正義感溢れる人に守られているのはとても心強いです。私には、それができません」

 私は席を立ち上がり、椅子にかけていたブレザーのジャケットに腕を通した。

 鞄を持ち、彼女に背を向ける。

「では、また今度会う時は普通の後輩として」

 そう一言残し、私はお店を出ていった。

 逃げた。そう、逃げたのだ。

 この先、ひびき先輩は危険な目に遭うかもしれない。

 それなら、私が手助けをして一緒に戦った方がお互い良いはずなのに。

 なのに、私は断った。

 怖かったんだ、だって、私は弱虫でなにも守れないから。

 やっぱり、私は変われないな。

 思えば、変わる努力すらしていなかった。

 私はこれからも、弱い人間として生きていくのだろう。

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アーティフィシャル・マジカルガール チェリミ🍒 @Cherrymeetball

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