第4話 第一回魔法少女説明会

 『古鳥ことりひびき先輩』

 彼女は私と同じく魔使共同学園の生徒で、私よりも1つ上の二年生の先輩。

 彼女はそう名乗った。

「いやぁ、リアルにビックリしたよ。同中の後輩がまさか襲われたとはね~結界内でも弾かれてないからマジテンパったわ~」

 ひびき先輩はフラペチーノをストローで混ぜながら言う。

、私達は現在、とある町のカフェに居る。

 あの後、ひびき先輩に腕を引かれるままここに来てしまったのだ。

 なんだか目を合わせるのが怖くて、おしゃれなカフェのフローリングをただ眺めている。

 悪い人じゃなさそうなのに、やっぱり年上となると謎の威圧感を感じてしまう。

「さーて、そろそろ説明に移らなきゃね!長ったるいし何度もするの正直メンドイから耳の穴かっぽじってよーく聞きなさいよ?」

フラペチーノを飲み干すと、彼女は真っ直ぐと前を向きそう言う。

「は、はい!」

 ひびき先輩はそう言うと、スマートフォンの画面を私に見せてきた。

 可愛らしいイラストと共に丸い手書き風のフォントで『第1回魔法少女説明会』と貼り付けてある。

「あの、これは……」

「いざという時に作っておいたスライドショーよ、こう言うのあった方が分かりやすくない?」

「……前々から作っていたんですか?」

 私がそうひびき先輩に問うと、ひびき先輩は得意気に腕を組んだ。

「魔法少女となると、常に用意周到でなくちゃいけなくなるのよ」

 ふふん、と笑みを浮かべるひびき先輩。

 私は「そうなんですか」と、中身のない返事をすることしかできなかった。

 なんだか毎度の如く、やりたくない事をまたやらされかけている気がする。

 ここは丁重にお断りさせていただいて、帰らせていただくことにしよう。

 そう思い私は席を立とうとしたが、ふと、ひびき先輩の表情が目に入る。

 ひびき先輩の表情は先程の得意げな笑みとは違い、なんだか楽し気に微笑んでいた。

 そんな顔をされては、黙って帰るのもなんだか気が引ける。

 話を聞くだけ、話を聞いたらすぐに帰ろう。

「まずは、あの変なバケモンについてね」

 ひびき先輩の手入れされた綺麗な長い爪が、スマートフォンの液晶にコツンと当たると、スマートフォンの画面が切り替わった。

 イメージとして貼り付けられていた画像は如何にも悪そうな魔女や怪物のイラストだ。

 イラストの絵柄のせいか、とても可愛らしく見える。

 あんなにおぞましいくるみ割り人形より、これが敵だったらよかったのになんて思ってしまう。

「こいつらの名前は『フェアリーズ』この街の不可解な事故や事件は全てこいつらのせいよ、ニュースで見ない?」

 ひびき先輩の言葉にハッとする。

 そう言えば、この町はここ数十年間、事故が多い。

 ニュースでも建物の倒壊や交通事故をよく目にする。

 それらは全て、この化け物達の仕業……?

「そこで、あーし達魔法少女の登場なの」

「魔法少女……」

「えぇ、この町の被害を最小限に抑えられているのは魔法少女がこの街を守っているからよ」

 そう言うとひびき先輩は青色の玩具の様なものを取り出す。

 短めの棒状のもので、上は大きなハート型の輪になっていて、その中心にもハート型の宝石が取り付けられている。

 中心には大きめなリボンがついていて、本当に絵に描いたような魔法のステッキであった。

「これはステッキ。この世に五つしかない魔法少女に変身する為の重要なアイテムよ」

 この世に五つしかない。

 ということは魔法少女は、あと最大でも四人いる計算になる。

 ひびき先輩以外にも、魔法少女がいる可能性が高い。

 しかし、私は今まで5人もいる魔法少女に出会った事がない。

 五つしかないとはいえ、実際なっている魔法少女は少ないのだろうか?

「魔法少女の姿に変身すると特別な力『魔法』が与えられる。魔法少女の持つ魔法は三つ。一つは『個性魔法』魔法少女個人のポテンシャルや性質から生み出される魔法。二つ、『結界魔法』文字通り結界を張ることができる魔法。三つ『防御魔法』所謂、バリア。身を守ることができるわ!」

「ちなみにあーしの魔法は『飛行魔法』空を自由に飛べるの!」

 「魔法」それは創作上で聞いたことがない言葉だった。

 そもそも、まず、魔法というものが現実にあるわけがない。ありえない。

 私は今までそう思っていた。

 しかし、あの戦いを見てしまったらそんなことも言ってられない。

 魔法が実在している。私はこの目で見てしまった。

 現実と架空が交差する不思議な感覚がした。

「しかし、その代わり魔法少女化け物達を倒す使命を課せられる。」

 先程まで明るかった声のトーンが一気に下がり、冷静な声色へと変わった。

「……警察や自衛隊には頼めないんですか?そ、そんなことが起こっていたら、国で問題になってもおかしくないんじゃ」

 私はひびき先輩に問うが、ひびき先輩は首を横に振る。

「できたらもうやってるわよ、できないから今こうなってるの」

 ひびき先輩は机に両肘を立て、両手を口元に持ってきた。

「……見えないのよには」

 "見えない"それは、見ようとしても姿を目視することができない物理的なものなのだろうか。

 はたまた、見ようとしても目を向けられないとかの比喩的表現なのだろうか。

 恐らく、今回の場合は前者であろう。

 しかし、見えないとはどういうことだろうか?

 私はあのくるみ割り人形が見えていた。

 おぞましい、その姿がしっかりとこの目に映っていたのだ。

「あーしみたいな魔法少女は役割上見えていて当然。対して、いなばちゃんは普通の一般人。見えていない方が当然。でも、見えていた。それに……」

 ひびき先輩は椅子の上で「ぷぅぷぅ」といびきのようなものをかいて眠っているウサギさんの方を見た。

「アンタに、ぷぅ子が見ているのも不思議なワケ」

「ぷぅ子……?」

 なんだそのネーミングセンスが壊滅的な名前はと、冷や汗を流す。

 が、対するひびき先輩は自慢げに笑みを浮かべていた。

「ぷぅ子ってのは、このウサギの名前よ。あーしがつけたの、かわいいっしょ」

 かわいい……のか?いや、ひびき先輩の感性では可愛いのかもしれない。

 ひびき先輩の感性は独特なものなのだろう。

 だって、ひびき先輩の腕にはエビフライの様なシュシュがついているのだから。

「それじゃあ、なんでこの……ぷぅ子?ちゃんが廊下に飛び出した時、騒ぎが起きていたのですか?」

 私の質問にひびき先輩は答える。

「見えなくても実体がないとは限らない。ぷぅ子もこいつらだって、見えないだけで実体はある。例を出すと、ぷぅ子はあの時お構いなしに突っ込んでたから人にぶつかったり廊下のもの倒したり、それで実体がないから騒ぎが起っていたのよ」

「なるほど……」

確かに、あの時の廊下は物が散乱していた。

誰もいないはずなのに机たちが倒れてゆくのだから、騒ぎになるのも理解できる。

「つまり、アンタはイレギュラーなワケ、そこであーしは考えたのアンタには魔法少女の才能があるって」

「才能……」

 そう言われると、なんだか断りづらい。

 それに、なんで私なのだろう。

 こんな私なんかよりも、適任がいるんじゃないかって……そう思ってしまう。

 でも、しっかり断ろう。こんなこと、今の私なんかにはできない。

「いなばちゃん、あーしと共に戦ってほしい。2人でこの街を守る英雄ヒーローになりましょう!」

 ひびき先輩は手を取り、私をまっすぐ見つめながらそう言った。

『英雄』それは、私が今も憧れている存在の名だった。

 なりたくてもなれなくて、きっとこれからもなれっこなくて……。

 でも、機会さえあれば、そう自分に言い聞かせていた。

 確かに望み通りにはなったけれども、こんな大事に巻き込まれたいとは言っていない。

 しかし、こんなチャンス次はいつ来るのか分からない。

 でも、きっと無理だ。こんな大切な役目に私なんかが居たら、足手まといになってしまう。

 親友すら守れなかった私に不特定多数を守る魔法少女なんて、務まらない。

 彼女の迷惑になってしまうのなら、私はこのチャンスを捨てる。

 だから私はひびき先輩に言った。

 ちゃんと、言わなきゃ……自分の口から、はっきりと自分の言葉で。

「ごめんなさい、私には……できません」

「へ?」

 ひびき先輩は拍子抜けした様な声をあげる。

「さ、才能があるって、褒めてくださったのは……凄く嬉しいです。でも、わ、私なんかに務まらないと思うんです。ドジだし……弱いし……この街がひびき先輩の様な正義感溢れる人に守られているのはとても心強いです。私には、それができません」

 私は席を立ち上がり、椅子にかけていたブレザーのジャケットに腕を通した。

 鞄を持ち、彼女に背を向ける。

「では、また今度会う時は普通の後輩として」

 そう一言残し、私はお店を出ていった。

 逃げた。そう、逃げたのだ。

 この先、ひびき先輩は危険な目に遭うかもしれない。

 それなら、私が手助けをして一緒に戦った方がお互い良いはずなのに。

 なのに、私は断った。

 怖かったんだ、だって、私は弱虫でなにも守れないから。

 やっぱり、私は変われないな。

 思えば、変わる努力すらしていなかった。

 そうだ。私はきっと、これからも変われないのだろう。

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