第2話 日常の崩壊

緋色の空の下、私は喧嘩を抜け帰路を辿っていく。

今日も疲れたなぁ。

あの後、無事にプリントを生徒会室に持って来れたけど……。

うちの生徒会長、「夜桜よざくら美春みはる」会長はやっぱり苦手だ。

彼女は中等部の中で1番の優等生で、他生徒や先生からの信頼も厚い。

いつも笑顔で、優しい人…なんだと思うけど、なんだか少し怖い。

上級生や年上が苦手なのは昔からだけど、夜桜会長はその中でもダントツ。

正直、関わる必要がないのなら極力関わりたくはないぐらいの人物だ。

いや、ダメだよね。

夜桜会長は何も悪いことをしてないわけだし。

だけど、なんだかあの笑顔は裏がある様な気がする。

多分きっと、私の考えすぎだよね。

歩を進め校門を通過しようとすると、足にモフ…と柔らかい何かが当たった感触を感じた。

「ぷぃ、」

足元を見てみると、そこには昼休みに見たあのウサギさんが居たのだった。

まだ居たんだ……でもなんで私の前に……。

「ぷぃ、ぷぃ!」

まるでついてこいと言っているかの様にウサギさんは前脚を何度かダンダンと鳴らすと、

そのまま住宅街の方へ走って行った。

なんだかデジャヴを感じる気がするけど、ついて行った方がいいのかな?

私はウサギさんの後を追いかけてみることにした。

ウサギさんは住宅街を走り抜け、狭い抜け道を走って行く。

一体、どこまで行くつもりだろう……。

しばらく追いかけていると、そこは近所でも一番栄えている町に着いた。

ここにはショッピングモールやゲーセン等のお店がたくさんあり、ご年配の方から子供連れの主婦、学校帰りの学生で賑わっていて、一見いつもと変わらない様子。

しかし、ウサギさんは道路の方を見て、険しい表情を浮かべながら目を細めている。

私は訳も分からずウサギさんの向いている方を見てみる。

なにも変わらない。いつも通りの町……のはずだった。

地面が揺れだし、大太鼓が力強く叩かれているような音が聞こえる。

地震?と思ったが、スマートフォンの反応が無いのを見ると地震ではなさそうだ。

遠くの方から、クラクションの音や破裂音が聞こえる。

町の人の悲鳴や子供の泣き声が飛び交い、今の状況を一言で表すなら「地獄」が合っているだろう。

視線を道路の方へ移したその時、私は腰を抜かして動けなくなってしまった。

「ひぃ……っ!?」

道路の車を踏みつぶし、木々をなぎ倒しながら巨大な迫ってきている。

動きがカクついていて、カチカチとゼンマイの回る音が聞こえる。

やがてそれはこちらの方へゆっくりと近づいてきていて、姿が鮮明になっていく。

現れたのはどこかメカの様な見た目をしたくるみ割り人形だった。

「なに……あれ……」

くるみ人形はこちらをしばらく見つめると、足を上げてくる。

私の真上には巨大なくるみ割り人形の足があり、今から逃げても大きな足で踏みつぶされてしまうだろう。

頭に浮ぶ「死」の文字。

絶対絶命とはこの様な事を言うのだろう。

多分、私は助からない。

運動能力も素早さもない私の足はただの悪あがきにしかならない。

でも、このウサギさんには助かってほしい。

一瞬、ウサギさんの姿があの親友と重なる。

髪を結っているリボンを握り、私は覚悟を決めた。

「ぷゅ……?」

ウサギさんは首を傾げながら私の方を向く。

「ウサギさん、元気でね」

私はウサギさんをなるべく遠くの方へ目がけて投げた。

ウサギさんはバタバタとしながらも足の影の外に着地し、こちらの方を振り返る。

よかった。これでウサギさんは大丈夫。

くるみ割り人形の足は私を踏みつぶそうと迫ってくる。

もう、悔いはない……と言ったら噓になるけど、それでも最期にあの子を助けられてよかった。

私は瞳を閉じ、最期の時をただただ待っていた。

記憶が流れてくる、これが走馬灯なのかな?

家族の声、あの日の英雄ヒーローの声、親友の鳴き声、翼の音。


___翼の……音?

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