第19話 神臓対策局ミズガルズ③ 余裕
「さて。ケーキも腹に納まりましたし、そろそろ教授……フェーデ・アドヴェントへの対応を考えましょう」
応接机の上に乗っていた皿やコーヒーカップを片付けながら、エルドが口火を切った。するとケーキの味に感動し打ち震えていた、サングラスの男が手を挙げた。
「はい、先生!! その前に質問があります!」
「はい、レゾンさん」
サングラスの男、レゾンはノクターンの方を向いて言った。
「この姉ちゃん……誰?」
今までの間に説明していなかったのか!? と、ノクターンはエルドを睨んだ。
「あ、すみません、紹介してませんでした。彼女はノクターンさん。ええと、簡単にに説明しますと……」
少し考え、エルドは答えた。
「教授と取引して、私を襲撃してきた人です」
間違ってないがその言い方だと私はこの場で拘束されるのではないのか? と思い、ノクターンは周囲の反応を見た。
ラーナ、レゾン、フラムが顔を見合わせ、ため息をついた。
「また?」
「またか」
「またですか」
「なんですか、皆さん。その反応は」
不満そうに言うエルドに、ラーナが首を横に振りながら言った。
「だってエルド君……年から年中、誰かに襲撃されてるじゃない」
レゾンが頷いた。
「闇サイトの賞金首の常連だしな」
フラムは手持ちの端末を操作し、闇サイトに掲載されているエルドの賞金金額を表示させた。とんでもない数の0の桁がならんでいる。
「エルド殿が襲撃を撃退するたびに賞金は跳ね上がり、もはや現実味のない金額に到達しております。近々殿堂入りの噂すらあります」
「賞金首の殿堂入り……嫌ですねぇ」
「まあ、いいさ。歓迎するぜ、ノクターン。俺はレゾン・アンスタンだ」
レゾンは、右手を前に出した。ノクターンは戸惑いながら、その手を握ろうと手をだした。
すでに、レゾンの手はそこにはなかった。
否、ノクターンの正面のソファーに座っていたレゾンの姿自体が消えていた。
これは、と思うより早く、ノクターンの後ろでレゾンの声がした。
「まあ、見ての通りだ。俺もエルドやアンタと同じくハートホルダーさ」
振り向いたノクターンをのぞき込むように、胸に鬼火を灯したレゾンが立っていた。
「コラッ! レゾン君! ノクターンさんに失礼でしょ!」
眉を顰めて、ラーナが声を上げた。
「自己紹介だよ、自己紹介……これ以上にわかりやすい自己紹介はないぜ」
そう言いながら席に戻るレゾンの様子を見ながら、ノクターンは先ほどまでのふざけているとしか思えない会話内容から、ここにいる者たちを侮りかけた自分を恥じた。
ここは、神臓対策局ミズガルズ。日夜、心臓狩人をはじめとしたラグナロク・ハートが関わる事件の最前線である。そこに深く関わる者が常人の訳がない。
先ほどのまでのおふざけは、余裕の表れなのだろう。
何があっても対処できるという、強者の余裕だ。
「さて、それでは。改めて、フェーデ・アドヴェントの情報を確認しましょう」
そう言いながら、フラムは端末を操作した。
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