第13話 Café GRENDEL③ 心臓の探索者

「……お姉さんも」

 エルドが言おうとしていることを察し、ノクターンは言った。

「ああ、ハート・ホルダーだった。姉の胸が青く光っていたのを憶えている。どんな能力だったかは、わからないが」

 そう言いながら、本当に姉の能力はなんだったのか、とノクターンは思った。姉は闇を照らす照明替わりに胸の鬼火をよく灯していたが、能力をノクターンの前で使ったことはなかった。

「……孤児だった私と姉は、ある時……そう、お前が先日壊滅させた臓器密売組織のような連中に捕まった。連中の狙いは、もちろん私たち姉妹の神滅心臓だった。暗い部屋に閉じ込められた時、姉はずっと私の手を握っていてくれた」

 ノクターンはエルドに自身が震えていることを悟られぬよう、手を組んだ。

「そして、姉だけが部屋から連れ出された。それが姉を見た、最後だ」

 ノクターンの脳裏に最後に見た、姉の後ろ姿が浮かぶ。姉は、一度振り返った。姉は言った。大丈夫、私にまかせて、と。

「しばらくして、私も部屋から連れ出された。私は、戦乙女教会の孤児院へと入れられた。訳が分からなかった。もちろん、そこに姉の姿はなかった」

 暖かい寝床、食事を得ることができるようになったが、突然姉がいなくなった喪失感は消えることはなかった。

「年月が経ち、私は孤児院を出た。もちろん、姉を探すためだ。ある町で、かつて私たちを攫った組織の人間を見つけ……心臓を取り出された姉の死を知った」

 その時のことをノクターンは、よく覚えていない。覚悟していたことであったが、姉の死はノクターンの全身を怒りと悲しみで覆い尽くした。我に返った時、組織の人間は半死半生で血まみれになって目の前に転がっていた。

「姉は……どうやら、自分の心臓と引き換えに私を組織から解放してくれたようだった。それから私は、姉の心臓を探すことにした。心臓だけがこの世に残っている、最後の姉の一部だからだ。私は心臓の探索者、ハートシーカーになったんだ」

 そして。

「フェーデが、教授が私に連絡を入れてきた。姉の心臓の在り処を知っていると」

 フェーデの名が出た瞬間、エルドが身を震わせたのをノクターンは見た。

「フェーデはリゼンハイム、お前を自分の元に連れてくれば姉の心臓の在り処を教えると言った……これが、私とフェーデの間にある契約だ」

 エルドは頷き、ひとつ質問がありますと言った。

「教授がお姉さんの神滅心臓の在り処を本当に知っているとして……その心臓がお姉さんのものであると、ノクさんはどうやって判別するんですか?」

「……私は……相手の神滅心臓に能力で発生させた電流を流すことで、記憶を読み取れる。それで、判別することができる」

「なるほど、ということはさっきの戦闘でも?」

「ああ、ギフトが火炎放射を放つ場面が見えたよ」

「わかりました、では……」

 そうエルドが言った時、エルドとノクターンの座る席に影が差した。

 ノクターンは、スーツ姿の恰幅のいい男が近くに立っていることに気が付いた。男は立派な口ひげを触りながら言った。


「お話し中失礼します。エルド・リゼンハイムさんでしょうか?」

 


 






 

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