第10話 雷華の夜想曲⑤ 接近戦
かかった!
闇に潜んでいたノクターンは、自身のラグナロク・ハートを発動する。胸から青い閃光と電流がほとばしった。
放電する右拳を握りしめ、地を蹴り一気に距離を詰め、エルドの背後に迫る。
自然現象でも発生することが非常に稀な球雷を能力で再現するには苦労したが、エルドの目を欺けたならば、甲斐もある。
エルドがこちらの動きに気づき、振り向く。胸には青の鬼火が灯っている。想定どおりの反応にノクターンは勝利を確信した。グングニル自体はまだ出現していない。ノクターンは勢いを減じず、放電する拳で打撃する。
まずは、その能力を解除する。
胸への打撃は、速さ重視の軽いジャブ。帯電しているとはいえ、ダメージはほぼない。ノクターンは威力の軽さにエルドが困惑した表情を浮かべ、そして自身の身に起こった変化に気づき、表情が驚きへと変化する様子を見た。
エルドの胸の鬼火が消失した。
「能力を解除されるのは、はじめてだろう?」
そう言いながら、ノクターンは顔をしかめた。脳内に自分のものではない記憶が流れ込む。
ギフトの火炎放射攻撃が目の前に迫る光景。
エルドが体験した記憶。
敵の神滅心臓に微弱な電流を流し込み能力を強制的に解除する、この技を使用すると、高確率で起こる反動。なんど体験しても気持ちのいいものではないとノクターンは思いながら、真打である第二撃を放つ。
踏み込み、体重を乗せる。左フックがエルドの顔面をとらえ、電流がエルドに流し込まれる。糸が切れたように、エルドが膝をついた。
勝ったと思いながら、ノクターンは、後方へ飛び、距離を取る。気絶、または全身が痺れている状態と考えられるが、エルドを通常の敵と考えればギフトの二の舞だと慎重を期す。
エルドは、動かない。両ひざを地面についたまま、うなだれている。
「……気絶したか」
言いながらも、気を許さず、ノクターンは一歩踏み出した。
エルドの上体が反り返る。胸がノクターンへと向けられた。
突如、青い閃光がノクターンを襲った。
「く、あ……」
突然の発光にノクターンは目が眩み、顔を背けた。エルドが神滅心臓の鬼火をカメラのフラッシュのように発光させたことを察した。
眩んだ眼でノクターンは、エルドの動きを見た。エルドが上体を反らした状態から、バネように前方へと飛ぶ。衝撃、そしてノクターンは転倒する。
組みつかれ、足同士は絡まり、背から回されたエルドの腕がノクターンの首を絞める。
「くそっ」
ノクターンはとっさに、全身から放電を行おうとした。
「ちょ、ちょ、ちょっと、ま、まま待ったたたた」
呂律がはっきりとしないまま、エルドがノクターンの行動を制した。
「ここここのままっま、ほほ放で電ししててわた、わた私を、かか感で電させさせる、と、さらに、締めが、きききつくなりますよよよよ」
そういわれ、ノクターンは奥歯を噛んだ。たしかに感電による筋肉の収縮により締め技がさらに締まることは予想できる。これ以上、締められると意識を保つのは困難だ。
もがきながら、ノクターンはダメ元で言う。
「は、離せ!!」
「いいいい、いややや、か、体がこここれ以上、うまくくく動かせせせなななくてって……むむ無理でですす」
最悪だ、とノクターンは目の前が暗くなるように感じた。
そんな状態のまま、二人は朝日に照らし出された。
暗い、どこまでも暗い空間。時折、振動が空間を震わせている。
「彼女がリゼンハイムと接触しました」
「そうか、予定通りだね」
「彼女、リゼンハイムと戦って、負けてますけど……」
「それも予定通りだ。戦って勝てるとは思っていないさ」
でも、と男は言った。
「彼女は必ず、エルドをここに連れて来てくれるよ」
で、と男は尋ねた。
「今、二人はどういう状況だい?」
「それが……」
「いやあ、運動した後の食事は美味しいですねえ」
「…………」
笑顔のエルドと、憮然としたノクターンは。
西ヨーム駅前、カフェ・グレンデルで朝食を食べていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます