第9話 雷華の夜想曲④ 雷華咲く

 エルドは、コンテナの上に着地した。舞い上がった土煙が周囲を漂っている。

 ノクターンの胸の発光と同時にかすかにオゾン臭を感じ、即座に回避行動をとったことが功を奏した。

 回避しながらエルドは、ノクターンの手から地面に向かって枝割れした光が放たれたのを見た。そして、雷鳴。

 能力は、おそらく放電。ノクターンという名前、そして能力の内容から本部のフラムへ情報収集を依頼しようと、エルドは通信端末を起動させた。


 回線がつながらない。


 エルドはコンテナの上から周囲を見た。闇が広がっていた。周辺の外灯はもとより、駅、そして遠方の街並みから光が消えている。

 先ほどのノクターンの能力の影響であることは、明らかであった。エルドはノクターンの胸の光を探したが、見当たらない。能力を一旦解除し、闇にまぎれている。

 エルドは気配を探りながら、ノクターンの能力を分析する。発光現象開始から実際の能力発動までに通常存在するタイムラグがないことは、脅威だ。次に彼女の胸の光を見た瞬間、攻撃が直撃する可能性がある。エルドは、自分たちハート・ホルダーの胸の青い光に、生者を死へと呼び込む鬼火ウィル・オー・ウィスプの名が与えられている意味を再認識した。


 今のところ、周囲に鬼火の光はない。エルドは相手同様、闇にまぎれて移動しようと一歩を踏み出しかけ、立ち止った。

 とっさにエルドはバックステップした。後ろ向きにコンテナから落ちながら、空を見上げる。先ほどまで足場にしていた、コンテナに青い鬼火が落ちてくる。エルドは、ノクターンの舌打ちを聞いた。


 ノクターンが着地したと同時に、コンテナは空気を震わす破裂音とともに発光した。発光は一瞬。すぐに闇が戻る。ノクターンの姿と鬼火は闇の中へ消える。


 エルドは着地と同時に、周囲にある積み上げられたコンテナの影へと身を隠した。気配を探りながら、遠距離攻撃の類は相手が使ってこないことを察した。ノクターンは、教授からエルドを連れてくるように言われている。万が一、当たり所悪くエルドが死んでしまう可能性を減らすため、近距離攻撃……放電能力をスタンガンのように使い、自身を制圧するつもりのようだ。


 闇の中に変化が生まれた。

 数メートル先の闇に、青白い光が浮ぶ。光はその場に留まったまま動かない。

 今度は、先に仕掛けるか。

 こちらを見失って、探しているのか、誘っているのか。判別できないが、エルドはノクターンの背後を取るためにコンテナの影から影へと移動し光へと近づく。

 光に近づき、エルドは違和感を持った。そして、気づく。

「これは」 

 闇に浮かぶ光は、ノクターンの心臓の光ではない。

 それは、放電する光の球体。


 球雷。


 

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