第11話 Café GRENDEL① 朝食タイム

 早朝の西ヨーム駅前の円形広場。

 そこにあるカフェ・グレンデルは、五十年の歴史を誇る。コーヒーとパンを販売する露店から始まり、今では西ヨーム駅前の顔といえる店へと成長した。今日も早朝より、パンやコーヒーを求めて多くの人が店を訪れている。


 そんなグレンデルの店先に設置された、日のさすテラス席に、エルドとノクターンは円形テーブルをはさんで座っていた。テーブルの上にはいくつかのパン、サラダ、コーヒーが乗っている。


「いやあ、運動した後の食事は美味しいですねえ」

「…………」

 笑顔のエルドは、ノクターンに話かけた。ノクターンは憮然とした表情を崩さず、そっぽを向いている。

「カフェ・グレンデルには前々から、一度来てみたかったんですよ♪ 創業以来変わらないパン、コーヒーの深い味わい……近年人気のグレンデル・オリジナルケーキの数々……ユグドラシルの情報誌『ゆぐ☆なび』の記事に間違いはありませんねえ」

「……んで」

「へ?」

 ノクターンがエルドの方へ向き直った。

「なんで! 私は! お前と! カフェにいるんだっ!!!」

 エルドは、きょとんとした。

「なんでって……朝ごはんを食べるために」

「ちがっ……違わないか……やっぱり違う!! そういうことじゃない!!」

 ノクターンは丈夫な木製のテーブルに拳を振り下ろした。振動で跳ね上がったパンをエルドはキャッチし、口へと運ぶ。

「さっきまで! 私たちは戦っていただろう!」

 もぐもぐ。

「敵対していた!!」

 もぐもぐ。

「戦いの結果は……まあ……その……なんだ……引き分けと言っていい!!」

 もぐもぐ。

「だが、決してお前と私は、一緒に朝ごはんを共にする関係では……」

 もぐもぐ。

「人がしゃべっているのに、もぐもぐ、うるさい!!!」

 ごくん、とエルドはパンを呑み込んだ。

「朝ごはんを一緒に食べる関係ではないですか……悲しいですねぇ」

 エルドは、しょぼんとして言った。

「日が上がるまで一緒に、あんなに激しく動いて、最後は絡み合ったのに……」

「い、いやらしい言い方をするんじゃない!! ハラスメントだ! 訴えるぞ!」

「じゃあ、私も暗がりで背後から襲われて、刺激的に、激しく攻めたてられたと訴えますけど?」

 ぐぬぬ、とノクターンは悔しそうに顔を歪め、立ち上がった。

「つ、次に会う時がお前に最後の時だ! 覚悟しておけ!」

 去ろうと背を向けたノクターンにエルドが言った。


「教授のところ、一緒に行ってもいいですよ?」







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