第7話 雷華の夜想曲② 情報提供
ああ、と頷きエルドは周囲を見た。
改札口から数名の乗客がホームに着いた始発列車へと乗り込んでいく。誰も通信端末で話すエルドを気にする様子がないことを確認し、エルドは尋ねた。
「で、どうでした?」
「ハートシーカーと名乗った情報提供者ですが、残念ながら……」
「わかりませんか」
想定していた結果ではあったが、エルドは肩を落とした。
申し訳ない、とフラムは言った。
「善意の第三者の通報としては臓器密売組織の活動拠点、心臓狩人の情報があまりに正確すぎましたので……組織内の内通者もしくはギフトと敵対する別の心臓狩人の工作の可能性も考慮しましたが、特定には至りませんでした」
「いえいえ、十分です、ありがとうございます。」
エルドは、冗談めかして言った。
「今回、組織壊滅やギフトを拘束できたのは、情報提供者……ハートシーカーのお陰ですからねえ。お礼に食事でもと思ったんですが、ね」
そう言ってから、エルドは再び駅の構内をぐるりと見渡した。構内にいる数少ない乗客たちの中で、エルドに視線を向けているものはいない。
だがエルドは、監視されて話が聞かれていることを確信しながら言った。
「そのうち、向こうから会いに来てくれるかもしれませんね」
会いにきてくれるかもしれません、ですか。
通信を終え、フラムはエルドの言葉を反芻する。彼がそう言うということは、ハートシーカーから、今後なんらかのアクションがあるということだ。
対応案を検討する。エルドが遅れをとることは考えにくいが、念のためにレゾンへ連絡を入れるべきかと思案しながら、フラムは部屋の最奥、うず高く資料や書面が山積した机で徹夜の事務処理を続ける局長の元へと向かった。
「局長、エルド殿にはケーキの件はお伝えしまし……局長?」
フラムは、全自動決裁押印マシーンと化した、この部屋の主であるラーナ・F・セレスティアを見た。まず間違いなく、このグラマティクス大陸全土で十本の指に入る美女が、その美貌を台無しにしていた。美しい金色の髪はボサボサになり、目の下にはアイシャドーのような隈、焦点の定まらない虚ろな目、だらしなく開けられた口からは涎が垂れている。普段はビシッとしたスーツ姿だが、今現在のくたびれたジャージ姿からは全く威厳は感じられない。
おいたわしやと思いつつ、流石にこの状態は局長の尊厳に関わると感じ、フラムは手持ちのハンカチで局長の涎が書面に落ちることを防いだ。
「局長、局長! ラーナ局長!」
フラムが呼びかけながら肩を揺すると、ラーナの虚ろだった瞳に弱弱しいながらも光が灯った。
「ふへ?」
「局長、お気づきになられましたか?」
「あ、れ、私のケーキは?」
ケーキを食べる夢を見ていたラーナにフラムは、首を振り、残酷な現実を告げた。
「残念ながら……ケーキは、まだ届いておりません」
ショックを受け涙目になるラーナを見て、フラムは申し訳ない気持ちになった。
心の底からエルドが早く帰ってきて、ケーキを届けてくれることを願った。
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