第2話 序章 鬼火と共に来る② 心臓狩人
真横から声が聞こえた。
え、と視線を向けたソフィを衝撃が襲った。宙を舞ったソフィは自身が蹴り飛ばされたこと、後方にいた筈の鬼火がいつの間にか、自分の真横にいたことを察した。
鈍い衝撃音とともに、ソフィは地面に叩きつけられた。地面に落下しただけでは、蹴り飛ばされた勢いは減じず、ソフィの体は公園脇の林の中へと転がっていく。
「い……たぁ……」
あまりの痛みに声を出したソフィは、透明化していた自身の姿が徐々に輪郭を取り戻していく様子を見た。同時に、胸の青い光も消えていった。
「監視カメラはもとより赤外線、反響定位でも感知することが出来ない完全透明化能力か」
声が聞こえた方向、ソフィは近づいてくる心臓狩人を見上げた。ローブのような長衣を纏っているため特徴も性別もわからないが、声音から相手が男だとソフィは思った。心臓狩人の顔はどこにのぞき穴があるのかわからない、無貌の仮面で隠されていた。
「貴方は……だ、れ……?」
倒れた自分の横に立った仮面の男にソフィは、声を振り絞って尋ねた。
「ほう! まだ、声が出せるか。なかなか肝の据わった女だ」
仮面の男は、心底驚いた様子で言った。
「俺が、誰か。俺は―」
仮面の男は、身にまとう長衣の内側に隠されているモノをソフィに見せた。
「ひ」
一つひとつパッケージされ、男の長衣の内側に縫い付けられたモノを見て、ソフィは悲鳴を上げた。
無数の、脈打つ心臓がそこにはあった。
仮面の男は言った。
「俺は、心臓狩人だ。聞いたことくらい、あるだろう」
鬼火と共に来る死神だ。
心臓狩人の胸に灯る鬼火が青く輝いた。もしくは、と男は続けて言った。
「俺やお前の体にある特別な心臓……ラグナロク・ハートを必要としている奴や組織に用立てる、個人事業者とも言えるなぁ」
心臓狩人は、右手を自身の頭上に掲げた。胸の光が掲げられた右手の周囲に伸びていき、一つの形を成形していく。
轟、という音ともにソフィは熱を感じた。心臓狩人の右手には、赤く燃え盛る炎で出来た巨大な鎌が握られていた。
「シャイニング・ハーヴェスター、これが俺の能力だ。お前の能力と比べて、ひどく単純な能力だ」
心臓狩人が炎鎌を振るった。肌を焼く熱風をソフィは感じた。近くの木の幹が斬撃面に沿って、音を立てて切り倒された。木の切断面は真っ黒に焦げ、煙を上げている。
「焼いて斬る、それだけだ。だが、単純なだけに利点も多い。焼いてしまうから出血も最低限、心臓の新鮮さが保てる」
心臓狩人はまるで日常の、便利な道具を自慢するように言った。
「では、早速で悪いが……死んでもらう」
鎌の刃が、ソフィに向けられた。
「安心しろ、痛みは一瞬だ」
振り上げられた鎌の炎が描く軌跡を見たソフィは、首と胴が切断される恐怖から目を閉じた。
死んだ、そう思った。襲い来る鋭い痛み、または地獄のような熱を覚悟した。そして、田舎の両親に別れを告げた。
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