第4話 序章 鬼火と共に来る④ 赤焔の死神

 舐めるな、か。

 襲い来る炎の斬撃を回避しながらエルド思った。

 心臓狩人、ギフト・クランクハイト。またの名は、赤焔の死神。かつて存在した、世界樹政府軍のハートホルダー部隊「U013」の元隊員。決して、舐めてかかれる相手ではない。事実、エルドは真剣である。

 だが。

「負ける気は、しませんね」

 斬撃、そして炎を搔い潜り、エルドはギフトの腹部へ掌底を打ち込んだ。

 腹筋に跳ね返され、打撃としては浅い。しかし、牽制にはなったようで、ギフトは後方へと飛び、距離を取った。

 林中から始まった攻撃と回避の応酬により、場所は公園内の中央にある人工池の畔まで移動していた。

 エルドは、数メートル先で炎鎌を構えるギフトを見た。轟轟と音を立てて燃え上がる鎌の炎が、ギフトの無貌の仮面を照らし出した。表情から次の行動を予測させない仮面の厄介さを感じながら、エルドは心臓狩人が奥の手を隠していることを直感した。

「エルド・リゼンハイム」

 ギフトが言った。

「なぜ、能力を使わない」

「その口ぶりですと、私の能力をご存じのようですね」

「ああ、知っているさ。知らん奴の方が少ないだろうよ」

 言いながらギフトは、炎鎌を振るった。一瞬で、周辺の芝生が焼失した。

「だが、それが真実だと確信している奴は何人いるだろうな? 噂は一人歩きするものだ。人から人へ伝わる間に、真実は輪郭を失っていき、別の形になる」

 エルドは苦笑して、頷いた。

「ええ、全く……迷惑な話ですよ、本当に。聞くところによれば、私は人の形を真似た化け物だとか、実は複数人いるとか、政府が作り出した架空の人物だとか」

「要塞都市ロスモルグの話だ」

 ギフトの言葉を聞き、エルドは肩を竦めた。

「貴様は、たった一人で乗り込み……五十名のハートホルダーを制圧し、都市を支配していた雷候サエッタを討ち取った」

 さらに、とギフトは言った。

「どこかの馬鹿な学者が蘇らせた竜の首を斬り落とした話、封印区画である鉄の森に侵入して生還した話……そして、懐かし戦闘部隊U013を解散に追い込んだ話」

 ギフトは炎鎌をエルドに向けて、言った。

「全て、本当の話だ。真実だ。俺は、知っている。お前の能力がなんであるかも、正確に認識している。発動したら、俺が決して勝てないということも」

 おや、とエルドは希望を込めて言った。

「これは、もしや降参宣言ですか、ね?」

「……言っただろう、発動したら決して勝てないって、な」

 エルドは、ギフトの殺気が一気に膨れ上がるのを感じ、眉を顰めた。

「何を」

「すぐに能力を使わなかった、貴様の負けだっ!!!!」

 エルドは、ギフトの炎鎌の刃が形を崩したのを見た。刃は渦巻く炎そのものと化し、エルドの向かう奔流と化した。

 

 火炎放射。ギフトの奥の手であることを確信し、エルドは炎の飲まれた。


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