第3話
「悪いんだけど、これからは二人がやって欲しいんだけどね」
ある建物の部屋に入る直前会話する。
「何?何?」と吉岡くんが。
「何ですか?」と胡内さんが。
申し訳ないなと思う気持ち。上が彼らの前後くらいの世代からその辺を短縮したせいだから。
「本来実習期間あるのはたぶん知ってるよね? 手順自体は簡単だし。安全性もあるから今回から当分あたってもらいたいわけ」
ほんとに、簡単でそこまで難しいことではない。畳とテーブルがある部屋。相手が来る前に先に二人には軽く説明しておく必要があった。
「どんと任せて!」
馬鹿らしいくらい相変わらず明るい性格は羨ましいやらまぶしいやら。大きな声で彼は言った。
「わたしに出来ることなら」
と彼女は小さく笑いそう答えた。
「やり方は相手が来たら私がやることをまぁ今後やっていくだけだし。一応数日間くらいは私も付き添う形になるから難しいことではないかな、今日は隣で座って見てたらそれでいいから」
この時期はどうも本来対応する人達が本業に忙しいせいで回される。本屋だけというわけにはいかない。
頷くのを確認してテーブルの前に正座して相手が来るのを待つ。
余裕を持って私達が来ている。そのせいもあって相手が来るまで時間には少し余裕があった。なるべくまともな服装を心がけ来たつもりだが、私自身のセンスに自身がない。
訪問の合図と声続いて足音が聞こえてテーブルの向こう側に現れた。
「どうですか? お変わりありませんか」
定型文句のような声をかける。相手は少し年輩の女性、常連さんのひとりだ。
「おかげさまで何ともあらへん」
その微笑みからも間違いなく。そうだろう、とは言っても現在も応急措置染みてしまっているのは申し訳ない。
「ほうですか。ではいつも通りで問題は無さそうですから、これお渡ししておきますね。何かあればいつでもご連絡ください」
鞄から取り出してテーブルへ相手向きに御札の入った白い箱置いて渡す。
「ええ、いつもありがとうね」
「むしろこれくらいしかできなくて、申し訳ない限りです。それから今後は、私の隣にいる後輩二人が対応することになります。後輩二人は信用できる人間なので。電話対応は今まで通りなので心配事があるようでしたらどうぞ」
伝えると彼女は二人を見て
「そうですか、わかりました。よろしくね」
とだけ言うと出る準備をしたため見送った。確か今日は彼女だけで終了だ。
「って感じだから難しいことはないと思うし、引き継ぎ期間は私も随行するから。こんな感じで基本は御札を渡したりする感じかな」
元々別の人間が対応していた。結構前のことだけど。そもそも当人は行事やらなんやらで忙しないこともあってかながらく押し付けられたまま。まぁ研修や実習向きだから構わないけれど。
「その御札ってどこのやつなんですか? 誰かが作ってるとか?」
胡内さんが疑問を口にした。
「この地区だと基本私か■■神社かな」
■■神社には知り合いがいるというのもあるが何かあった場合、臨時対応してもらっている。
「欄先輩、作れるんですか?」
「ある程度ならね。前に手伝ってたことあるから」
得意な人には負けるが。でなきゃ⋯⋯いや、よそう。
「さて、帰ろうかね」
「足、びりびりする! しびれたっ!」
いつまでも珍しく座ってるなと思ったらこれ。
「何やってんの吉岡くん、馬鹿だね正座なんかしなくたっていいのに」
ほんと真面目すぎる馬鹿と言うか素直すぎる部分はどうかと思う。そのうちとんでもないことになりそうな性格だと思う。マンガやゲームで言うとヒーロータイプ(気質)。相手問わず優しい好青年、正直自己犠牲型な節が本屋で過ごしてても垣間見える所がある。老若男女から好かれ頼られる。
この実習内容や本屋での業務で死ぬような出来事は起きないと思うけど。
部屋を出ると鍵を締める。この部屋はこの手の対応にのみしか使わないから施錠しておかなければならないから。
「帰る時は施錠するの忘れないでね。引き継ぎ期間以降はそれぞれ、単独で対応してもらわないといけないから」
正直胡内さんに関しては心配していない。問題は吉岡くんだ、物覚えが悪いわけではないけれどうっかりしてしまう点がある。学校で言うと筆記と実技の実技に偏りがあるタイプ。体力バカ。そういう側面がどうも不安要素。
「おれに任せといて!」
その言葉でさらに不安が増す。まぁいいか。
「変わりないかと確認した時にさ、何かあったらメモはとっといて。後緊急時は■■神社にきみらが連絡するか、本人に行くよう促してね。まぁ常連さんばかりだからきみらよりあちらさんの方がわかってると思うけども」
従来より組織の段々研修、実習期間が短縮傾向がある。上の方針なのだろう。とりあえず人を確保したいのだろうけれど。安全策として研修期間や実習期間を本来長めに設定してるシステムなのに、何故はやまるのだろう。
実際二人は限りなく一般人のそれだ。私もそうだけど。二人と比べて研修・実習期間は従来通りだったからある程度そこには実地でも何とかなる。しかし二人はそうではない。いざというとき自身の命を守る方法も知らず対応方法も知らない、そんな人員だけで嵩をます意味は何なのか。つくづく上は人を、人の命を馬鹿にしている。
そんなことを考えながら本屋への帰路についた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます