第2話
本屋にとって雨は大敵だ、扉を閉じ。湿気ぬように空調を回してひと息付く。天気予報では雨など降る予定はなかった。
役たたずめ、と。心の中で思うのは私の自由だろう。何のための天気予報か聞いてあきれる。
店内にはいつもより客は多くない。むしろ居ないに等しい。軽く仕切られた右側は本屋とは別に休憩スペースというか学習スペースとでも呼ぶべきか未だにこれだと納得できる呼称の無いテーブルと椅子が備え付けられた空間がある。
どちらも私の契約しているフロアだ。二階には事務所としてまるごとフロアを借りている。
雨は鬱陶しくてかなわない、嫌いだ。特に夏場の雨は嫌いだ。どのみち雨は嫌いだが、食物が育つために必要なのだから嘆かわしい。
今日は私ひとりしか出勤しないだろうことはシフトからもわかる。よりによって雨とはなんたる屈辱か。開店当初は私ひとりで経営していたが、上から寄越してくる連中を追い返すのも、と思った。いや、本業から考えると当然受け入れる必要はある。世の中に溶け込ませて馴染む必要があるんだと。私にはどうでもいい話だ、先輩のせいだ。あの人がやってれば済んだ話。勝手に独立して相談事務所のようなものをやりだしたから。私は。いや、愚痴をこぼしてなんになる。
こんな仕事辞めてやると思ったことなら何度もある。その結果がこれで、こうやって情報収集のためにくらいなら上にとって目を瞑ってくれるだろうと。
世の中には馬鹿げた話と思われるだろうが怪異というものがありふれている。見ようとしなければ無関係の。それでも残念ながら被害は発生してくる。微細なものを情報として私は上に報告するだけ、何の対処手段もない私にできる最低限のこと。
対処は先輩や上の連中がしてくれることだろう、私は客同士の会話等からそれらしいものを書類にまとめて報告していればそれでいい。
ここに働いている連中もそういう連中だから。気にすることは何もない。
ここにはひとつ有用なものを設置している。相談箱である。ただし、怪異に無関係の人々には見えない仕組みになっているため。間違っても店への意見が書かれた紙が投函されるといった問題は発生しない。どういう技術なのかは知らないけれどそういうものだ、とわかってさえいればそれでいい。ゆうなればここの働き手の最高責任者も本屋としての店長も私。面倒事は私に上から降り注ぐ。
私は店内の在庫管理をすると客足がほとんどないのを確認してから、早々に店を締めて二階の事務所へと上がる。真っ白の床、真っ白な壁、階段。無機質なドアを開けるとそこには本屋の事務所と怪異事案対策専門機構の小さな単位の事務所を兼ねた横長の空間。
特に入ってすぐ目に見える範囲は本屋の事務所としている。万が一怪異関連の案件の客を通す時に本屋の客がかちあわないように配慮してのことだ。
だから入って右手(3分の1)は事務机やテーブル、壁側にハンガーラック、時計等。簡素なものが置いてある。
長方形の左手(3分の2)は怪異事案対策専門機構としての案件や相談への対応のために鍵がかけられる応接室と会議室がある。
奥側は大きな窓が壁の空間のほとんどを占めている。
今日他の従業員が居ない理由は、上からの定期的な呼び出しによるものだ。大概は検査、講習、会議等。今回もその類いである。
本部や支部からの要請、呼び出しは絶対的なものだ。とはいえ、店を無人にするのはあれだなぁなんて理由でOKが出るのは私が無能だからに他ならない。私は切り捨てても問題が無いと判断されたのだろう、と推測できる。
定期的に、総勢を呼び出すパターンや、新人だけを呼び出すパターン、お偉いがただけを呼び立て会議するパターン。他には案件を対処するために緊急要請されるパターンに分類される。
まぁどちらにせよ私が顔を出すことは一生無い。昔は先輩に連れられ顔を出していたがそれは遠い過去のこと。所詮一般的普遍な人種、それが私。
そもそも関り合いになんてなりたくもないが、容易に抜け出す権利は私には無かっただから。こんな風に本屋をやって上から寄越してくる連中を雇っている。無能な私への当てつけ。或いは選別、嫌がらせ。もうどうでもいいな。
固定電話の留守電が無いことを確認するとさっさと鍵を締めて帰路へ着いた。
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