第41話
昔から人々は言霊というものを信じていた。要するに想いをこめて心の底から口にすれば言葉は事実を伴うという考え方。
言葉には指向性がない特に現代においてそれは顕著だ。だから言葉に意味を持たせてはいけない、わからないものに名前なんて与えるのは良くない。特に世の理に反することには、だ。
怪化・怪花にはよくわからないことが多すぎる、わかっていることは、その多くは影響を受けた怪異の一側面(特性)を表した物が占めていること。と、基本的に攻撃性を持たないという事実。無いわけではないがあるタイプの者が大抵人間性を失う結果を招いたり、本人の人格と呼べるものは怪異に飲まれ崩壊した事例ばかり、生きていられるのは少数でそれらの人物は人非人と分類され本部の施設内で隔離されている。私が知る限りは。
要するに人間様の都合良くはできていない。ただの副産物だ。怪異汚染の一種でしかない。
「魔法か何かですかね、この前の」
「神に仮に誓っても魔法なんて使えんよ」
あー、面倒くさい。
「じゃあ何なんですか」
「物にベクトルを与えてるだけだって言ったと思うんだけど?」
「魔法じゃないですか、それ」
「馬鹿なの? 言霊って知らんのか、応用だ。要するにそう言うてるじゃん」
わけがわからない会話。何度目なのか繰り返しても説明が伝わる気配がない。厳密には違うけれど。
「じゃあ飛び降りて無事だったのは?」
「人より頑丈なだけ! 軽減させりゃ存外なんとでもなんだよわかったか」
「さっきから厳密に違うって言ってますけど何なんです」
志野と会話をすることが今は面倒くさい。
「言霊って言葉に命が宿るという考え方だよね。私は無機物にも微弱ながらでも命が宿っている認識なわけ。つまり言霊で操るんじゃなくてさ。魂だったり命を直接叩き起こすこと」
いや、説明の順序が間違っている
「その前に私の霊(幽霊)に対する認識の説明からしないとわかりにくくなる。ポルターガイストってあるじゃない、あれで思ったんだけど要するにさ電子とか電気ってものじゃないかと思うんだよね。人間が脳から電気信号を筋肉に伝えて動いてるわけだから、肉体がない状態は電子や電気そのものってことになる。だから電子、電気と呼ばれる物に直接干渉することをイメージすればいいわけ。ここがさっき話した話の前提条件」
「要するに物に宿る命には電気や電子が流したら必然的に動かせる。後前にやった携帯への干渉もこれだね。要するに後は方向性を与えてしまえばいい、ね? 魔法なんてない。所詮幽霊は幻覚で幻聴でしかない」
「余計意味わからないんですが?」
彼はそう返答した。
「これでも結構簡潔に話したんだけど? これでわからないならもうお手上げ」
そう私にはこれ以外説明する方法は持っていない。いつまでも説明を求めて来るから説明してわからないなら。
「というかこれ以上もうこの質問には答えるつもりもこの話をきみがすることも認めない」
この話はもうこの辺で打ちきりにしよう。
そもそも何故こんな会話をしているのかというと、怪我人(念のため入院)が出たこともありしばらく事務所内から動ける人間が一時的とはいえ減るから。先輩と辰己さんは離れられないから、事実上外に動けるのは私、志野、福呂の三人。だけになった。ではどうグループ分けするかとなると私と福呂の相性が悪いから必然的に、福呂。私、志野。となったわけでもう一つそれぞれ単体で動くという話もあったのに先輩が却下したから。
外回りの合間に面倒な話を振ったのが現状を招いた。頭が痛くなりそうな話をさせられ。嫌気がさしてきた。
休憩のために車を停めていた駐車場からコンビニへ入る。
「寒っ」
腕をさする。寒いわけがないのに寒いと感じてしまう自身に反吐が出そう。ドリンクコーナーのある奥まで歩く。店内放送ががなる。
脳裏に水辺と、人の声、気配。そんなものが過ってしまった。それは忘れ去りたい過去だ。頭を振る。今はそんなものに思考を費やすべきではない。
別に飲み物が欲しいとか喉が渇いたわけじゃない。思考を冷やす必要があっただけ。
面倒だな。このまま、いや良くないな。適当に品物を購入するとレジに向かい、コンビニを出た。
しかし、寒い。寒いわけないのだけど。嫌々車へ戻ることにした。
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