視点:志野
第34話
「欄先輩?」
書庫へ行くと言って数日、さすがに書庫へ迎えに来た。
「欄先輩? 何処です」
本棚を縫うように歩く。気配がしない。
「うわっ、欄先輩!」
危うく踏みそうになって驚く。ほとんど休憩していないんだろうか。本棚にもたれるように床に座った状態。
「あっごめん! 寝てたわ。」
ごそごそと目を擦りながら、目を開けて彼女が口に手をあてながら寝ぼけた声で答え。床に乱雑に転がったいくつかの書類を棚に戻して伸びをした後、彼女は書類の扉へ行く。
「見つからんもんだねぇ。わかってはいたけど」
ベンチに腰かけそんなことを言った。
「何を探してたんです?」
「いや? これってものではないというか形が明確な物ってわけでも無くて」
「なんすかそれw」
つい笑い出しそうになった。大の大人が点で曖昧なことを言うのだなと。
「して。何か用かな?」
はたと。
「普通に遅いんで、見てこいと言われて」
事実をそのまま伝える。
「そりゃどうも」
とだけ口にしたきり彼女は神妙な面持ちで黙りこくった。
彼女は人差し指で上を指さし
「ひとつ聞いておきたいんだけどさ、っても質問自体意味ない話なんだけど。志野くんは家族の仇としているその怪異倒したらどうすんの?」
「とくには何も」
「んーと。じゃあまぁ誰でもいいんだけれどそれは私でも田合さんでもまぁともかく誰かが代わりに解決するって言ったとしたら⋯⋯そしたら辞める?」
「いや、辞めないと思う。さっきから意図がわからない」
正直、その質問はどんな意図があるのだろう。彼女は空中を見上げ何かを考えるような表情をして
「そっか」と腰に手をあてながら言うだけ。何か納得したのか、どうでもよかっただけか。
カーディガンを軽くはたき
「さて、とお。帰るか」と呟いてエレベーターの方へ歩き出した。
走らせる車内はやたらと静けさが口を開けている。
「欄先輩?」
「なに?」
前方を遠い目で見ていた欄先輩がこちらを見る。
「さっきからなんで黙ってるんですか?」
「特に話すこと無いからだけど」
「疲れたとかじゃなくて?」
「え? 何? 人って常に喋らんといかんの!?」
心底驚いたと言わんばかりの表情を浮かべている。
「そこまで言って無いけど。先輩もっと喋ってるイメージが強くて」
「それは気のせいだね。そんなに喋るの得意じゃないし、性に合わないというか。刃物突きつけられて喋れとでも言われたらまぁあれだけど」
無表情にすっとなってそう言った。
「さすがにそこまで言わない」
会話はそれきり。先輩が窓にもたれて彼女の視界に何も映そうとしない。
ふと、彼女の瞳の中に何かが蠢いた気がした。ほんの一瞬確かにそう感じた、もう一度見た時にはそんな気配はしなかった。気のせいか。
「家の前まで、送っていきますよ」
暗い夜道だ。
「いやいや、ここでいい歩いて帰れるし。じゃあね」
先輩は駅前でここでいいと言い張って、車を降りて後ろ向きに手を高い位置で手を振り暗がりの中へ消えた。
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