第33話
気がつくと、日が明けようとしている。
「起こしちゃった?」
覚えのある声が落ちてきて、目を向ける、雅。
「ううん」
「調子はどう?」
彼女がしゃがむ気配がした。
「結構マシになった、と思う」
「ならいいけど、まだ早いしもう少し寝てな」
不確かな記憶。
「もっと居ればいいのに」
彼女が口を尖らせてそう言った。
「そうはいかないでね。兎山さん携帯予備無いんだけど他に封に使えるものってあります?」
彼女から、兎山さんへ視線をうつす。
「んー、その人がよく使うものってのが一般的やな。」
「ですよねぇ、予備準備する時間が無いまま来てもうて」
腕を組んで考え悩む。
「あっ! 律ちゃん回線つながってなくてもいいならあたし持ってる」
「それほんと?」
「持ってくるわ」
慌てたように部屋を出ていった。視線を戸から再び兎山さんへ戻す。
「あぁそれと、やり方変えてみようかと思います。あれだと不調長引くのもあるし」
「僕もそう思いますよ、欄さん。それより御札ほんとに要らん言うんかな?」
「どうなんでしょ。自分でも考えまとまらないというかなんというか」
「あれやったら雅が作れるんやから持っといて損無いんちゃうかな」
「他にも考えることがあるんでその時はお願いします」
慌ただしく戻って来るのが見えた。
「雅そこまで急ぐ必要ある?」
「あるある! 勝手に帰りそうやんか」
取りにいったものをテーブルに置きながらそう決めつけてくる。
「挨拶して行くから、そんな急いだりせんでも」
困惑の限りである。決めつけがひどい。
「じゃあ今から挨拶行こ!」
「ちょい待たんかい、人には人のペースがあるんじゃ。では向こうさん行ってからまた戻って来ます」
軽くお辞儀をして雅の後を追いかける。靴を取り出して履く。
「よくそんなもん着たまんま、走りよんな」
ほとほと呆れる。巫女装束であそこまで走れるものだなと。拝殿へと追いかけながら小走りで向かっていく。
いつも来る時は挨拶代わりにここへ訪れる。鈴を鳴らして手を合わせ挨拶を済ませると再び社務所へと戻る。朝は冷える。
「あー、もしかして呼んじゃいました?」
「携帯持っとらへん言うとったからな」
聞き覚えある声が外から聞こえてきた。
「したら、これで失礼します!その内また来れそうなら来ます」
「陽くんにもよろしく言うとってな、欄さん」
「まぁ可能なら伝えておきます」
荷物を手に取ると部屋の戸を開けて社務所の出口へ
「雅、じゃあね」
返事らしい返事は返ってこない。
足早にこの場を後にする。
「用事で来とっただけやのに」
見慣れた顔と車。
「電話あったら
先輩と助手席には志野くんがいるらしい。
「まぁそれはそう」
車へ荷物を押し込み後部ドアから車に乗り込む。
「一昨日の報告必要です?」
「そりゃそうだろ」
「たぶん解決した気はするんですけど。もしかしたらその内、再度見に行った方が良いかもしれないって所かなぁ」
「随分ずさんなものだな、欄」
「いやぁ、あれです。判断の比較する対象がまるで無いケース過ぎて。正直私にも」
「お前が自分の判断で行ったんだろうが」
「いやいや手の化け物出てくるなんて想像してなかったんだって」
手振り身振りで説明する。
いや、
「本物が居るのかも、先輩。ネット上には呪い代行なんて類いのものが存在するのは知ってますか?」
「知らねぇし、どうせ雑魚か偽物だろ」
「もしも、ヤバい奴がいるかもしれないとしたら、どうします?」
「わざわざそんなリスクをおかす馬鹿な呪詛師が居るわけ」
「確かに普通ならあり得ないそう考えてきました。だって呪い返しのリスクを鑑みるならって。それをものともしない奴がいる、なんて妄想で済めば良いですね、先輩」
これが行き過ぎた妄想のままで済めば良い、と思う。そもそも鵜山や兎山の周りでは良くない出来事が続いていやしないか?
遠縁にあたる、志野家厳密には母方の血筋が鵜山、兎山の遠縁、そして空蝉こと熨斗司の熨斗家も。どちらも壊滅していた。これは偶然か?
「先輩、私当分本部の書庫で調べたいことがあるんです」
「⋯⋯何を?」
「わかり次第。お教えします、今は断言できないので」
「じゃあ、本部で下ろせば良いんだな?」
「そうです」
車内で考え事をしていた。から気づくと本部の駐車場についていた。
「悪いんですけど荷物は置いてかせてもらいますね」
「おう、じゃあな」
「じゃ、失礼します」
車を降りるお本部の書庫へと足を走らせた。
私が知る限り鵜山家、兎山家に縁があるのは志野大樹、熨斗司(空蝉)、福呂雅、福呂陽。そして鵜山家の鵜山環、兎山家の兎山宗吾。鵜山家も兎山家もほぼ血筋は絶えつつある。鵜山家は千里眼を女性のみのが受け継ぐ家。つまり跡継ぎが生まれなければ当然途絶える、しかし分家のひとつ兎山家はまったく能力を持つことは前提としない家筋。本来途絶えるリスクが低い。残念ながら兎山宗吾と福呂姉弟を除くともう血は途絶えることになる。霊能者として由緒ある家筋で女性だけが千里眼を伝統的に保有する。
実のところここに少なからず共通した内容を抱えたものがある。熨斗家だ。彼らの家系も元々降ろし屋(口寄せ)を可能とした女性の血筋にあたる家系。ただこの家系はどうも特定の能力を引き継いでいなかったらしいと聞いた、熨斗司を除いては。熨斗司が先祖返りか写し身を保有する。だから空蝉。この家筋にもその手の女性が先祖として出てくるがこちらは特に性別等の条件は無いという違いが大きい。
志野家に関しては謎が大きい母方の血筋を辿ると繋がりがあるのだそうだけれど、それに関してその手の血筋という話がどうも伝わっていないから。件の問題も父方の親戚が近代になって突然引き起こし招いた怪異だから。
血筋、家系そのようなものは書庫には無い当然だ。ところで怪化、怪花という呼称。これには少し誤解がある。怪異汚染による能力を会得することと=になっているが正確には怪異によって人の性質が変異すること。どちらにせよ副産物だ。
私や志野くんの場合は性質の変異=怪化。従来異質的能力を保有する人間が怪異との邂逅の果てに能力が転じる例がある、これが鵜山環や熨斗司のパターン=昇華。怪異によって能力を会得する事例は怪花ここにあてあはまるとしたら福呂陽だろうか、分類不能で超能力じみてもいる気がする。いずれにせよ本質は攻撃性ではないというのが一般的。そもそも攻撃性がある場合性質の歪みからかそれとも怪異汚染を耐えられないからなのか怪異そのものといってもおかしくないほどに問題を孕むから処分されるか隔離されて真面に人間としては生きる道はない。
だからこそ実地に赴く人間は適性検査の合格が前提で尚且つ任務がある度に高頻度で検査を何度もするわけだ。要するに死ねればマシ、人非人と呼ばれるくらいの汚染が起きれば地獄という問題。多くはないが元々霊能者、霊媒師、祓い屋等の業種の人間はそもそも検査するまでもないという面もある。神職や住職の類いはもっぱらそっちの仕事や行事でこちらとあまり関わりが少ない、面倒ごとを押し付けてさよなら的なパターンが大きい。そもそも宗派によっては懐疑的事案なわけだからごもっともな話だと。
「面倒な案件持ち込んでくるだけだしなぁ」
自分ところで解決できないもしくはできなかった案件持ち込むだけ持ち込みとんずらしやがるとんでもない連中。ことあるごとに行事がイベントがとか忙しくてとか言ってるんだから、たまったもんじゃない。
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