第23話
《緊急会議招集》そんな通知が携帯を踊った。私は準備をすると、本部へ向かった。
おそらく私が到着するのは一番最後だろう。
大きな扉を開けてなるべく静かに入る。
「では、会議を始めようかと思います」
席にたどり着いたのとその声が放たれたのは同時。私をよこす思考は理解不能だ。
面倒な話、本部と支部はバランスが傾き過ぎている本来主従の関係ではなく、対等というのが彼らの言い分。創設当時あくまでも確かにそうあった。ところが日に日に傾きとうとう本部が絶対的存在として認知されて久しい。あくまでもそれは彼らの言い分でしかない、元々設備も決定的に違っている。
それを是正することが前から討論されもっぱら邪魔をしたがるのは人事部。それゆえに今の今までなし崩し。
要するに今回することは単純明快。後輩や新人の枠組みから新しく選任提案しろ。そういう話。
私は、志野大樹、空蝉、辻本澪この三名を記入した。
それは私の取れる最善手。尚且つ能力、バランス、人格を鑑みても。
空蝉に関してなら向こう方の方が多くを知っている。熨斗司その名前なら尚詳しいはずだ。それは志野大樹においても同様に。辻本澪に関しては定かではないけれど。
如何なる処罰も私はのむだろう。いや、違うな。私の思う善性に最も適した人間は。
すべきことはした。例え気に食わないとしてもそうすべきだと考えたなら頭を下げることも、命を差し出すこともきっと惜しくはない。
けれどそうできなかった。結果として。
なまくら。私。酷く痛んだのは、心か、身体か。やらかしてばかりだとはわかっていた。これは愚かさの招いた結果だ。
私は無様に床で。結果として受け入れた。声と声、机や椅子がぶつかったり倒れたりそんな音を聞いていた。
恨みを買うのは慣れていた。わざわざこんな場所で打って出るとは馬鹿げた話だ、と思う。暴力。それで気が済むんならそうすればいい。
嫌われているだから、ほんとは来たくなかった。そうこれが命令でなければ。偶然と必然の先で起きた出来事。誰が悪いわけじゃない、もし非を求めるなら、私自身。恨む気持ちには私はなれない。
解放されるまでどれくらい経ったのかなんてことは覚えていない。喧騒が私という人間をぼかした。
恨みを暴力がはらすことはなかったらしく周りがひっぺがすまでずっと何かを吐き散らしていた。言葉がノイズ混じりで認識できないでいたから聴覚に問題があるわけじゃない。でもその言わんとした言葉はなんとなく伝わった。どんな顔をすれば良かった? どう反応してればいい? それがわからないから。怒りに火を注いでしまっているそんな気がした。
周りの言葉が、声が、ノイズで聞き取れなくて。また嫌な気分にさせていたらさらに最悪だなんて思いながら身を起こした。
「お騒がせしてすみませんでした」
とかろうじて言葉を紡ぐとさっさと部屋を飛び出した。部屋を出る時見知った人物とぶつかったけれど。今はこの場をさっさと去り自宅へと帰ることだけを考えていた。まだ、気分は良くない。
後ろの足音も声も無視して。
「おい、欄!」
一番聞きたくない声がノイズが消え最初に聞こえたことが惨めだ。とも。
「待てって、そんな状態でどこ行くつもりだ」
もう放っておいてほしいと、思うのは私の傲りか。足音がやけに近くはやく聞こえた。腕を無理やり引っ張られて速度が潰された。今どんな顔を私はしているんだろ。泣きたいのか笑いたいのかわからない。
「どこって自宅に帰るに決まっているじゃないですか、放っておいてください」
酷い人間って言葉は私をよく表した言葉だなんて。人の心配を無下にするなんてきっと、どうかしてる。いつも私はおかしい。今はもっとおかしい。睡眠不足も余計にそうなる原因かもしれないな。
「放っておくのは難しい、その状態で行かせて何かあったら? あってからじゃ遅いだろ」
窘める、
「そんなこと先輩に関係無いでしょ」
この場をはやく。
「お願いですから私を放っておいてください、お願いします」
祈り。そんな祈りを首を振って断られた。
「睡眠だってまともにとれてないだろ」
耳を塞ぎたい、これ以上他人の声を聞いていられない。私には、私は。
だから、お願いだから。かみさま。
「なぁ」
やめて。誰の声も。私には。
返事さえもできない私は首を横に振る。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
余裕がない。意味の無い文字列ばかりが口をついて出る。
「話しなくてもいいから、少し落ち着け、な?」
些細な言葉が重く耐え難い。
後ずさりしようとした。
「少し休憩しよう、疲れてんだきっと」
意図も容易く瓦解。
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