第21話
「欄先輩」
「どした、何?」
トラックの中で話しかける。
「この前⋯⋯」
「ああ、用事思い出したんだよ」
「嘘ですよね。だって逆の道じゃないですかあっちは」
「うん、嘘」
屈託ない笑みを浮かべそう言った。
「じゃあ」
なんですか
「
より笑顔で答える。嬉々として。
「それならわざわざ出なくても別にバレるはずないですよね?」
喫茶店中に居ても問題等無かった。あの距離で見えたはずがないから。逃げるように
答えを。
「もしかして田合さんとか?」
「なんて?」と先輩が笑顔で質問を拒絶した。苛立ちは見えなかった。
「何か不都合なんですか?」
確信。
「志野くん」
「はい?」
「しのくん」
先輩が感情の無い顔をしてぼくの首を手で締めようとにじりよってきた。強く両の手で。指が食い込む。剥がせない程ではない。運転席側の窓を背中に。ふと、思った。
もし殺してしまったら?
抵抗せずに殺されるのも嫌だけど。
うっかり殺してしまったら?
その先は?
「欄、先輩は。答えるよりも殺して、殺してしまい、たい?」
「重要、なのは。ね。志野くん。私を脅かすものすべて。こうするしかないってことなんだよ」
相変わらず何を考えているのかわからない。答えらしい答えは。勢いよく突き飛ばすとトラックを降りた。
トラックから先輩が降りてくる様子はない。携帯がもし通知をつげても仕事どころではないだろう。トラックと先輩を置き去りにして帰った。
特別通知は来なかった。仕事を放棄したこと。トラックと先輩を捨て置いたこと。なにひとつ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます