第20話

「この前のニュースになってないっすね」

「そりゃあそうだよ、隠蔽するだろうし最悪適当な人間を差し出して終わり」

「そこまでするなんて上の人々怖いですね」

「上じゃないよ? そういうことすんのはさ人事部だから」

 黒い目がそらされることなくこちらを。先輩が、そう言った。

「人事部が? ですか」

「そ。例えば怪異事案で捕まえ収容してる呪詛師とか、要するに都合悪い存在を容疑者として差し出し嘘の目撃情報を警察に出すのさ。例えそれが元身内(組織の人間)であろうと払うべき犠牲ならね。」

「まぁそもそも怪異事案を対応する時点で一般人を遠ざけているからめったにそこまでしないけど」

 と淡々と彼女が断言した。

「よく知ってますね」

「君はそんなことも知らないんだ、結構長い割には。いざというときのために点数稼ぎしておけば?」

 先輩が真面目に言っているのか、ふざけて言っているのか、汲み取れない。ぼくが答えあぐねていると。


「ま。志野くんはたまきさんに目をかけてもらってたんだから、心配する意味もないでしょう。有能な人間だしね」

「そんなことないと思うんっすけど。先輩はどうなんですか」

「私かぁ。いざというときには切り捨てられるよ、たぶんねやらかしてばっかりだから」

 物憂げな表情をして目を閉じ先輩は黙った。窓に面した喫茶店の中でこんな話をしている。


 先輩のグラスの中身はまるで減っていない。

「先輩、今日非番なのにお茶しようって言ったら来てくれるんですね」

「別に断る用事も無いからね」

 見覚えのある車が窓から見えた。突然先輩は伝票を掴んで立ち上がった。体調が優れないように見えた。

「ごめん、やっぱり帰るわ」

 パタパタと足早に会計を済ませて車とは逆方向へ歩き去っていった。ちょうどその車を先輩が見てすぐのことだった。


 

 見覚えのある車はぼくが前に所属していた事務所のものだ。そして先輩が向かった方向は先輩が来た道とは真逆。


 先輩の居た席の前にはほとんど口をつけず飲みみ物がのこされていた。

 

 何か気に障ったんだろうか?


 もしくは。


 


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