視点:志野
第19話
携帯の画面に通達の2文字が踊る。
「さてどうしたものだろうね」
「先輩、サボる口実なんか考えてるんじゃ?」
苦虫を噛み潰した顔がこちらを向いた。
「見なかった、ということで」
「そんなこと言っても無駄ですよ、さあさあ行きますよ」
「知ってる?
「今すべき話ですか。知らないですけど」
「そ。すべき話というかこの案件は該当してるっぽいね。殺されないよう気をつけてね」
遠い目をしてそう告げた。
「根拠は? 殺されるって?」
「根拠は、んー。ない。時に必要とあらば犠牲はつきものだと話はご存知か」
「それは知ってる」
「今回は犠牲を払ってでもやるっぽいよ」
「誰情報?」
彼女は答えずに立ち上がる。携帯が再び震える。画面を見る。
「そろそろ時間だし。やるべきことをしよう」
「そうっすね」
「それから、志野くん。あんまり現場に踏み入れないよう気をつけて」
「何で?」
「あいつら見境ないんだ。命令通りにしか動かないから」
苦笑して、それだけ言い移動し始めた。少し古い建物が並ぶ路地裏、細い通路。離れた場所に待機させた車。
「命が惜しいなら、着いて来ない方がいい」
「どこなら安全なんですか」
「車の中でいつでも発車できるようにしてれば?」
運転席から彼女の方を覗き込む。
再び携帯が震える。のと彼女が走り出すのは同時だった。廃ビルの外階段にどうやって飛びついたのか。そのまま彼女は上へ上へと進んでいく。
奥の方に異様な人影が。どうおかしいのか、わからない。けれど。それは確信にも似た本能。左側のビルの方にはみな同じ服装をした人々が。
「待避命令?」
それは画面上に表示されたメールの通知、地面が酷くうねった。慌てて車を走らせようとして間に合わず、転げるように足を動かし右へ曲がる小道へと駆け抜ける。何がおきている?
「念力かぁ。」
遠く離れてるはずの彼女のそんな間の抜けた声が聞こえた。
「志野くん! このまま大通りに行くといい。拾ってくれるんじゃないかな」
「先輩は?」
「私は待避命令の通知来てない、んでね。やることやれってことでしょうよ!」
屋根が意図も容易く剥がれ後方に落下。一歩間違えていたらそう思うと。
「うへぇ、私もろとも殺す気かよ。人をなんだと思ってやがんだか」
声が聞こえ。特注の御札の入った容器が目前に落下してきた。
「悪ぃ手が滑った、悪いんだけどそれ回収しといてくれるとありがたい」
早口でそう言ったのが聞こえた。手に取ると速度を上げ大通りに抜ける道へと更に速度を上げ進んでいく。
角を曲がったところ真後ろで、両手を打つ音がした。そこから一定の間隔で柵に傘を当てながら走った時に鳴るような音が鳴り響いている。
『き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~い~』
彼女の声が低くそれでいて澄みわたるように一定のリズムで聞こえる。
『き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~い~』
声が止まるとガガンッと何かの音が響いた。
『き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~い~』
そしてまた
『き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~い~き~ぃ~き~い~き~い~き~い~』
再びガガンッと何かしらの音が響いた。
それが数回繰り返された。相変わらず何かの音が一定間隔で金属同士の擦れるような鳴り響いている。
『
『
彼女の読経だと気付いたのは遅れてからのこと、地響きのようにさえ感じた。
『忌願:六華焼』
操作していないぼくの携帯は勝手に通話画面が表示されそんな声が発せられた。驚いて固まる。
「熱っ」
ケースにしまいこんだままのそれ。御札? 護符? が熱を持っている。慌てて取り出す。一枚だけがひとりでに意志をもったかのように燃えている。果たしてそれが御札なのか?
見たことがない漢字?のようなものと線が長方形の中に赤いろで手書きされた、紙の束。しかし、すべてが同じ物には到底見えない。それよりもひとりでに何故一枚だけが燃えて他は燃えずにいるんだろうか。
『それは燃えたままでいいから、むしろ燃えることが大事なんだよ』
「どこから見て」
周りを見渡す。
『見なくたってわかるよ勘だけど。説明いちいちするなんて面倒だ』
「ってかどうな」
『ああそれから、一定範囲内の組織の人間の携帯を強制的に繋げて通話状態にしてるから』
プツリッと携帯の通話向こう側が打ち切られた。何かがカツカツと音を立てている。
一体どこから?
そんな疑問をよそに目前で火がの手が上がる。携帯にメールの通知が光る。
《処理完了》
「先輩?」
先輩が。どこにも見当たらない。
何かが落下した。というより着地した、先輩が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます