視点:欄

第14話

「ぐぇ、重いわ、ボケェ」

「欄さん」

 福呂がいつの間にか居た。体重がのしかかって重い

「何でおんねん。どうやって入って来やがった」

「上に頼めば何でも可能だし、不法侵入くらい」

 嬉々としてそう言った福呂を押し退けた。

「どけぇ、睡眠妨害すんじゃねぇ」

「朝ですよ。仕事しましょうよ」

「連日やれるか、馬ぁ鹿」

 ベッドに顔をうずめる。再び眠ろう。体の上に再び体重がのしかかってくる。 

 

「重い、邪魔、睡眠の邪魔するなー」

「えー」

 えー。じゃねえよ。ドつくぞ。ほんとにっ!返す気力も失せた。あつい、だるい。重い。優れない。気分悪い。頭の奥がぐるぐるする、めまい。


 噎せる。


 堪らなくなって体をくの字に曲げ、抱えた。


 ふと、適性テスト(検査)の不合格という事実を思いだした。怪異事案対策専門機構に所属する人間はほぼ受けているものだ。要するに実行(お祓いだとかそういったことをするの)に適性があるか検査するものだ。私は不合格だった。


 ならばこれは当然の報い。



 寒いのか、暑いのか、何もかもわからない。


 

「りっちゃん、りっちゃん?」

 久しぶりに名前で呼ばれて苛立った。耳障り、福呂の声が。いや、人の声が痛い。


「名前で呼ぶな、うざい。くたばれ、出てけつってんだろが」


 自分の声ですらも。脳を、頭を、砕くよう。身体の内側がねじれるように痛い。

 

 呼吸がままならないような。気さえする。目を閉じるのさえしたくない。見たくない! 何も。聞きたくない。すべて。



 何度も、不合格の文字が脳裏をかすめる。



 天井を見ることさえ。ままならないような。



 その内、自分という輪郭が曖昧にボヤけだした。



 へしゃげる? へし折れた? なにが?



 私が?







 



 

「──」

 どんな会話をしたんだったか。

「──」

 胸ぐらを掴まれる感覚の次にはぶん殴られた感覚だった。内容は覚えていない。殴られた痛みより、私は突飛ばされたことの衝撃を覚えていたように思う。


 先輩の遠ざかる足音をただ聞いていた。私はいつだっておかしい、間違っている。弱いし、愚かだ。


 


 この光景は。確かだ。夢だと気付いて悲しくなった。





 

 目を開けた。という言葉は正確だかわからないけれど。

 

「りっちゃん」 



 動いている車内。



「ずっとぶつぶつ何かをひとりしゃべり続けてたの覚えてます?」



「寝てた」



「座った状態でしゃべって目も開いてたのに?」

 心底不思議そんな表情。



「起きてた? 私が? いつ?」

 夢を見ていた。そう少なくとも私の中にある事実。



「ずっと、ってもりっちゃん話しかけてもよくわからないこと言ってるだけだったから」

 混乱、私は混乱している、と思う。



 相変わらず痛みはあった。それが私の感覚かと問われるとわからない。人の皮を被っているそんな気分。


 

「何処にむかってんの」

 

 そう言えばこの車は何処に?



「りっちゃん、診てもらおうと思って。本部」



「行かない」

 行きたくない。死ぬ方がマシだ。



「普通の病院行くのとどっちがマシか賢いりっちゃん、にはわかるでしょ?」

 助手席から身を乗り出しそう言った顔は。私を不快にさせた。挑発的な。



「答えようが答えまいが僕はいいけど。いざというときのために田合先輩今迎えに行くんだ」

 もっともらしい嫌がらせ。無邪気その言葉がよく似合うそんな声。大嫌いな声。



「だったら走行中の車から飛び出す」

 スライドドアに手をかけ開く。運転席で田口がロックをかけるよりも先に。この速度ならどうとでも。


「ちょっ⋯⋯」

 慌てて福呂が──。



 幸い転倒することなどなく後続車両にはねられることもなかった。ガードレールを越すと歩道に入って車の進行方向を逆に路地を適当に車がなるべく通れないルートだけを急ぎ足で進んだ。


 面倒事は大嫌いだ。携帯は車内に捨て置いた。靴と衣服だけ着けていればそれでいい。

 


 


 


 

 

 

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