第13話
「──」
後部座席から何事か声がした。むくっと起き上がっているのが視界の端に写る。運転席の真後ろに近づいて
「今から言う通りのルートを走れ、いいな?」
ひたすら何かを彼に告げた。
荷物の中からハサミを取り出しバッサリと髪の毛を切り落とした。
「水とアルコール持ってる?」
「ありますけど」
「よし、祓おうか」
淡々と彼女がそう言ったのを合図に。
車をあちこち叩く音が響きだす。三人の誰でもない。
「一気に処理するから赤信号以外で止まらず車を走らせろ、何が起きてもいちいち反応すんなよ」
一層大きな叩く無数の音が車内に響く。
彼女がペットボトルの水を半分飲み干す。
バンッバンッバンッ!バンッ!バンッバンッ!バンッバンッバンッ!
時間が経つ度悪化し続ける。
見る間にまばらな手形が窓を覆っていく。
絶えず叩く音も無数に響いている。
へしゃげそうな程に強く。
全く微動だにしていないのは彼女だけだ。
彼は眉をひそめている。
僕は息をのむ。
「よし、ちゃんとついて来てるな」
何が? とは言わなかった。
バリバリッ!バリバリッ!
叩く音に別の音が混じり出す。
それはきっかけのように三人の誰でもない声が混ざり始めた。幼子の笑い声のようなキャッキャッといったようなもの。男女区別のつかない何かの声。
車が一瞬、持ち上がり跳ねた、何かを轢いた。ような気持ちの悪い感覚。
「
「ここ?」
「そっ。降りんなよ二人とも」
アルコールを飲み干し缶を持って彼女だけが降りた。ドアは再び閉じられた。
彼女が前へ立ったかと思うとボンネットから車の上に登って視界から消えた。
絶えず何かの音と声が車内を満たす。
上から彼女が動く音が聞こえる。
べきべきっと車の天板が引き裂こうとするような音が聞こえる。
同時に何か小さなものが転がった或いは落ちた音
まるで悪態をつくように叩く音が響き渡った。
上からアルコールの空き缶が転がり落ちた。その上に彼女が飛び降り。空き缶がへしゃげ。
上方にそのまま空き缶が蹴り上げられた。
「よいしょっ」
体からゴミを払う動作をすると戻ってきた。
「終わったよー」
ドアがスライド
「今ので? お祓い?」
「そんなところ」
先ほどのペットボトルの半分残った水を飲み干して後部座席に座り込んだ。
「で? オレ車何処に走らしたら」
「今日はおしまい」
「欄さん、帰る場所そう言えばなくない?」
「そんなこともあったっな。私は車中泊でも構わねぇけど」
「オレの車なんだけど」
「金なら払うけど? 無理なら後で考える取り合いず何処でもいいから出せぇー」
「僕の家一応広いですよ?」
「てめぇの顔は見たくねぇんだわな」
車が動き出す、後部座席でまたバスタオルで頭をおおうと今度は完全に眠ったらしい。寝息が微かに聞こえた。
結局ホテルで彼女は降りていった。
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