第12話

「暇人だね、お前」

「これから先もここにいるつもりですか?」

「どうとでも」

「答えないんですか」

 毎度お馴染みのようにここに来て問答。いい加減答えてくれてもいいのでは。

「辞めてそんでおしまい。どう? 納得した」

 わざとらしい嘘。本気で、あしらい続けるつもりか。

 

「そんな子供だまし!」

「まぁこんな問答してても意味無いからなぁ。何を企んでるのか知らないけど。福呂」

「ふぇ?あっ。やったー」

 携帯を手にとびはね。電話をかけた。



「許可も出たことですし。タッグ組んで頑張ってきましょう、欄さん」

 施錠が解除された部屋の中。荷物をまとめているのを横目に。ひたすら話しかける。

「邪魔なんだけど?」

「一緒に仕事できるって思ったらわくわくするじゃないですか?」

「こっちはすげぇイライラするけどなぁ」

 眉をひそめて煙たがられた。本心で僕は言ってるのに。

「一般的に車呼べないじゃないですかここ」

「それがどした」

「組織の人間が運転した車ならいい、んですよね? 田口さんでしたっけ呼んじゃいました」

 これでもかと更に不快な顔を浮かべ。今日いち睨んでくる。

「ぁあ。そう。わかった」

「さっ、行きましょ行きましょ!」

 準備を終えた彼女を急かし外へ通路を進んだ。



 ちょうど日の下に出たタイミングでワゴン車がやって来て、停まった。

 後部座席に続いて乗ろうとして彼女のデコピンが直撃した。

「何するんですか?」

「お前は助手席座ってろ、お前と隣で座りたくねぇよ」

 ガンッとスライドドアが拒絶するように閉められた。気を取り直し助手席のドアを開けて乗り込んだ。

 閉めてベルトを着けたタイミングで緩やかに車が走り出す。

 

「よく揉め事なんて起こせるよなぁ」

 ミラー越しにちらりと後ろを田口が振り返った。

「好き好んでやってると?」

 後ろから彼女の気だるげな声がした。

「長期間拘束されたってことは、事実だからじゃねぇの?」

「残念かな誤解の末だわ」

「欄さんも大人しくこっちの提案聞いてくれてれば拘束されずに済んだじゃないですか。おかげで僕も田合先輩も処罰されるとこだったんだから」

「蒸し返すな。福呂。こっちはこっちで腕をへし折られたって何回言わせやがんだ」

「へーそこまでやらかして帰ってこれたわけ?」

 田口という男が愉快そうな顔をしている。今にもくつくつと笑いだしそうだ。

「欄さんなんで殴られたアザさっさと治療してもらわなかったんです?」

 後部座席でこちらに背を向けて寝転んでいる。

「まーせぇーきぃさーん? 聞いてます」

「聞きたくない。眠りたいから放っといてくれ」

 片腕で顔をおおうのが見えた。


 ふと時間が経って後部座席を見るといつの間に出したのかバスタオルで頭をおおって向こうを向いたまま寝転んだ状態。


 コンビニで停め休憩を、と。


「欄さん、コンビニつきましたよー」

 すでに彼はコンビニへと入って行った。ベルトを外し後部座席の方へ向き話しかけて。返事を求める。

「僕もコンビニ行きますけど?」

「じゃあ、僕行きますけど。何か必要ならメールでもしてくださいね」

 ドアを開けて降りると静かになるべく閉めて店内へ。


 彼は外で煙草を吸っているのが見えた。

「欄さん?」

 乗り込んで買い物袋を下に下ろし後ろを見て、話しかける。

「飲み物だけでもどうです?」

 返答らしい返答は一切返ってこない。時々呼吸が響くだけ。汗ばんでいるように見える。熱中症?

「大丈夫ですか?」

 後部座席に滑りこんで触れよう、として。思いの外強く手をはねのけられた。

「大丈夫だから。放っておいて」

「せめて水分補給し」

「要らない。次話しかけたら殺す!」

 睨んでバスタオルをひったくり再び顔を彼女はおおった。

 助手席に戻って携帯をいじる。怒っているのか? 不機嫌か? 不調か?

 次は殺すと言われて黙って大人しくしておくことにした。



 煙草を吸い終え無言で車内に戻ってきて再び発車した。




 


 

  

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