第11話
結局癖でまた今日も来てしまった。ベッドに寝転ぶ姿から意識があることは明白だ。腕で彼女は顔を隠していて表情をうかがい知ることはできない。
「欄さん、起きてるんでしょ」
「来なくていいよ」
「それ、僕の勝手じゃないですか」
「先輩もそう言ってたでしょ」
繋がることのない会話。
「え? 田合先輩来たんですか?」
「朝方にね」
何故? 釘をさしにきたんだろうか?
「なんて? 言ったんですか」
「さぁね。覚えてねぇよ」
起き上がった彼女の顔にはアザが
「田合先輩怒らせたんですか?」
「そうかもな」
田合先輩は怒らせると相手が女だろうと容赦のない性格。きっと怒らせたんだ
「本当は何を言ったんです? 怒らせるなんて相当でしょう」
「関係無いだろ、ほっといてくれ」
「言わないなら本人から聞くなり、カメラの録画見ちゃいますよ?」
「好きにすれば? 人が殴られる姿がそんなに面白い?」
「面白いとは思わないけど、弱みに漬け込める」
それだけのこと。とは言え、欄さんと田合先輩が殴り合う姿なんてわざわざ見たくないけど。理由が妙に気になった。
「質の悪い性格、相変わらずといったところか」
「嬉しいなー」
「褒めて無いんだけど」
「僕には褒め言葉です」
自然と笑みがこぼれる僕。を見て不快そうな顔をした。
「欄さん、上に相談しないんですか?」
「何を?」
「霊感のこと苦しんでるんでしょ? この前もやけ酒してましたもんね」
「しない」
ごうつくばりめ。
「どうせ相談しない限り、隔離されちゃうのに。人非人に分類されたらどうするつもりですか?」
怪花、怪化。によって或いは怪異から悪影響を受けた人間の中にはまともな人格が崩壊した者、制御できない人物。と上が判断すると人非人として扱われるはめになる。大概は施設内に隔離され。
「だったらなに? どうでもいい」
「そのことで田合先輩と揉めたとか?」
不快、最大限にそんな表情をした。
「違ぇよ、馬鹿。いてこますぞ」
「そこの隔てる物を越えてやれるんですかw」
煽るのは楽しい
「去ね」
低い声で彼女がそう言った。
「嫌だね」
どんと居座ってやる
「もしもし、田合先輩?」
「何? 福呂お前また」
「欄さん殴った理由教えて」
「なんて?」
「だから欄さん殴ったでしょ? 理由教えてくださいよ」
「気に食わねぇから殴った、んだけだ」
「ほんとですか? 欄さぁん」
電話が切られた。癪だ。相変わらず返事の無い彼女に口をへの字を浮かべた顔を向けて振り向いた。
「ほんと馬鹿なぁ、お前」
返事に手をヒラヒラさせて彼女を見やる。
「至って真面目なんですけど?」
「目障りで耳障りだから、さっさと帰れ!仕事しろ!」
痛くも痒くもない。
「欄さんの一件で僕仕事減らされました、欄さんのせいですからねw」
「上でも睨んでれば?」
「どっちの意味です? 物理的に上? それとも上の連中?」
「めんどいな、好きな方睨んでろよ。聞くないちいち。眠るから放っておいてくれ」
次は許さないと。アクリルが隔てでなければもっと嫌がらせできるんだけどな。
さて、監視カメラにでも見に行こうか。
医療棟の厳重な隔離エリアの監視カメラのデータは医療棟の監視カメラとは別の場所にわけられている。
眺める映像にはハッキリと映っている。さて、そもそも田合先輩は隔てられているはずの内側にまで入って会ったらしい。
会話の果てに田合先輩が大声を上げて、ものすごい勢いで胸ぐらを掴んで殴った。彼女は痛がるそぶりもない。怒り心頭といった態度で彼が出るとスタッフにより施錠され閉ざされた。
以降、僕がやって来るまで特に代わり映えしない映像。残念ながら音声は聞き取れなかった。
隔離された部屋の前の椅子に座る。
「ずいぶん派手にやられたんですね?」
「見たならいちいち聞かなくたっていいだろ」
「ところが音声だめだったんですよね」
「あっそ。教える義理は無い」
「追い返したがりますね。話してくれたら帰るって言ったら?」
乗ってくれたら。なんて甘い考えか。
「知るか。欄さんなんでそんなに僕のこと嫌がるんですか。ね?」
「お前のこと好くやつのが少ないだろ」
「泣きますよ」
「泣いてろ、わめいてろ。
おっかない顔だことで。
相変わらずそっぽを向いてる。布団にくるまって。頑なに会話をするつもりは毛頭ない、そういう意思表示。
何の収穫もなし。
「田合先輩」
相談事務所を締めて出てきた田合先輩に話しかける。こちらに気付いたようだ。
「福呂といい、欄といい、ろくでもない人間ばっかりだな?」
「いやいや、僕はともかく。欄さんは常識枠ですよ。田合先輩の方が酷かった」
「今は?」
「全員もれなく出来が悪い」
「は? 俺は後輩の面倒見てやってんだろ丸くなったろ」
それを自分で言うやつにまともなやつは居ない。何の根拠もない持論
「果たしてそうですか? 上の方々から見たらどっこいどっこいだと思わないですかね。実際三人で行動してた時だって」
「言い出したら終わりだろ。仕事せぇ切られんぞ」
「僕って優秀なんで重用されてますよ。今回のことで減らされちゃいましたけど」
できる限りの満面の笑みを僕はしたつもり。自分で言うのもなんだけど重宝されている。方だと思う。大真面目な話。
「甘やかされ過ぎたんだなぁ、あわれだ」
「やめてくださいよ、そんな可哀想みたいなの」
「事実だ、努力らしい努力もしてない。能力だよりのな」
痛い所をつく。
「僕からしてみたらアルコール女と暴力ゴリラが先輩なんて」
「道徳のどの字も習わなかったのか?」
「それこそ田合先輩、映像細工したでしょ」
「まだ、探ってんのか。知ってどうする?」
もはや肯定、否定しないのはそうだろう。
「田合先輩、らしくないですね。昔ならこんなことまでして何かを隠すなんてこと」
昔からそういうことは嫌いで、正義感で立ち向かう生き方で不器用な人間。そういうイメージだった。
ポケットから煙草を取り出し彼は吸い始めた。
「それに知ってどうするかは僕が知ってから考えるんです」
「まさかお前あいつの味方でもする気か?」
「誰の味方でもなく僕は僕のために好奇心や探究心を満たしたいだけですよ。必要とあらば欄さんも田合先輩も切り捨て利用する。それだけのこと」
値踏みするように舐めつけるようにこちらを見る。体格も合わさって威圧感は半端ではない。まぁそんなことに臆するような僕ではないが。
「どうせ追い返されたんだろ、無論俺も言うことはない」
「欄さんから聞き出すよりは田合先輩から聞き出すことの方が簡単。イージー」
「甘く見られたもんだな」
頭を雑に上から抑えられ、逃げられた。
さてどうする? どこから、誰から切り崩す
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