第2話 独白
誰かが言いました。信じる者は救われる。
だけど、そんな世界はありえません。
救われるのは信じられた者だけ。
だから私は、今日もリリィちゃんを信じている。
なんてことはない今日だった。
違いと言えば少し死にたかったくらいで。
「大丈夫?お姉ちゃん…」
「…えぇ」
寒い冬。
身も心も冷え切った私に差し伸べられ小さな手。
触れてみて初めて分かる、その温もりに涙した。
「それが私とリリィちゃんの馴れ初めです!」
「いや、知らねえよそんな話…捏造すんな」
あぁ、今日もリリィちゃんは冷たい目でこちらを見ています。
パッチリとしたおめめが邪魔をして怖い顔が作れていないようですが。
「てか、早く部屋に戻れよ。もうすぐ休憩終わるぞ」
それにしても、どうしてリリィちゃんは髪型を変えてしまったのでしょうか。
前のようにツインテールにしてほしいものです。
せっかくの美しい長髪がこれでは台無しなように思えてなりません。
もっとリリィちゃんの可愛さをアピールできるような髪型がふさわしい。
やはり…リリィちゃんの心境に何らかの変化があったのでしょう。
「おい、何をジロジロ見てる。気持ちわるいぞ」
「リリィちゃん…」
「な、なんだよ…」
「大人っぽく…見られたいのですか?」
「は、はぁ!?どうしてだよ!」
「ふふ…いえ」
リリィちゃんの部屋の本棚には最近女性向けの美容雑誌が増えていましたし、朝が苦手と言う割に髪の毛はしっかりと手入れされています。
予想通り、自分の理想とする姿がリリィちゃんにはあるようです。
カールをかけて下の方で結っている今の髪型も確かに大人の女性の雰囲気はあって素敵です。ですが、私は普段通りのリリィちゃんの髪型のほうが好みです。
オレンジの髪色はリリィちゃんのハツラツさと十分にマッチしていますし、もっとストレートな髪でいいと思います。
ぴょこぴょこと見え隠れする金のメッシュも最高のチャームポイントだというのに、
リリィちゃんはまるでそれを隠すかのように内側に入れ込んで髪を結ってしまっています。
「おい!何とか言え!」
とはいえ、自分で悩み挑戦した結果というものは得てして糧になる物。
それを否定する権利は誰にもないというのが真っ当な世の在り方でしょう。
「テラ?」
「私もお話ししていたいのはやまやまですが休憩が終わってしまいました。もう戻らないと…」
「そんなのどうだっていいわ!どうせ客も来ねぇし!」
ふふふ、さっきは戻れだなんて言っていたのに…
リリィちゃんは自分が一度気になったポイントは解決するまで徹底的に追及する。
今回はこれを交渉材料にしてみましょう。
「そうですねぇ、明日一緒にディナー…」
リリィちゃんの表情が、まだ話し終えてもいないのに怪訝なものへと変わります。
「どんだけ私と飯に行きたいんだよ…」
「今回はなんと!私の奢りですよ!」
「今回“も” だろ。そのオプションはもう意味ねぇよ」
あぁ、今回も駄目なようです。
「どうすれば!一体何を差し出せばよいのですか!?」
「いや、単純に行きたくないんだよ…お前と」
「どうして!」
「前、私によりかかって来たおっさんを半殺しにしてたじゃん…」
「あの店結構気に入ってたのに私まで出禁くらったの未だに許してないからな」
「あれは仕方のないことだったんです!寸での所でリリィちゃんから引きはがしましたが、あの男…リリィちゃんのお顔にゲロを吐きかける寸前でした!」
「いいよゲロくらい…洗えばいいんだから」
「駄目です!!」
リリィちゃんは何としてでもこの提案を断りたそう。
毎週一番ご機嫌の良い日を狙って誘いをかけているというのに、
リリィちゃんはいつだって誘いに応じてくれません。
「そんなに私と行きたいなら、店にいる他の連中も呼んで来いっていつも言ってるだろ。サシはキツイって…」
「誘ってはいるのですが、どういう訳か誰も彼も首を縦に振らないのです」
「まぁ、街中でお前モンスター扱いされてるからな」
「はて?」
「関わっちゃいけない奴だと思われてるの!災害とかの類と一緒!せめてそれは自覚しろよ」
「そんなのはどうだっていいんです!私はリリィちゃんと仲良くできれば!」
「良くは…無いんだよなぁお前もボスなんだし…評判ガタ落ちだぞ、ここ」
リリィちゃんの様子がいつもと少し違います。
普段通りであればとっくに私との話を切り上げ部屋に戻っているはず。
戻りたくない理由でもあるのでしょうか?
少しばかりの静寂の後、リリィちゃんはため息交じりに言葉を発しました。
「はぁ…わかったよ。明日21時<デビルミュールぐび>で待ち合わせでいいか?」
「あぁ!オーナーの方が情報通の、あのお店ですね!」
「いや、知らんけど…私も初めて行くし」
「分かりました!楽しみに待ってます!」
「はは…じゃ、戻るわ…」
リリィちゃんの気が変わった理由。それは一体何なのでしょうか?
まだまだ知らないことがいっぱいで、その分だけ知りたいと思える。
これは紛れもなく愛なのでしょうね。
さてと、私も配置に付くとしましょうか。
イヤホンから侵入の連絡が入ります。
(あ、テ、テラさん…4名の方が侵入されました)
(パーティを組んでいて、他の報酬には目もくれずそちらに向かっています…)
「ふふふ…今の私は無敵ですよ」
なんと言っても、明日はリリィちゃんと6か月と23日ぶりのディナーなのですから。
(あ、入門します…)
「おお…本当に居た…」
「な、なんかオーラヤバくね…?」
「覚悟しろ!テラ・シュタルテ!お前を倒して俺は名を上げる!」
「各々、打合せ通りに動くぞ!」
「「「「おう!」」」」
フロント、サポート、トリック、エンドポイント…
技術、魔力、知識、力…
そんなものは関係ない。
想いの力でこの世は成り立っているのですから。
「は?」
拳には何も響かない。
相手が何を身にまとっていようとも、この振るう拳は止められない。
「一番頑丈なヴィーンが…」
「う、うわぁああ!」
「お、おい…!」
心にも響かない。
逃げる相手であろうと、泣き喚く相手であろうと私は変わらない。
「あ…」
「ふふふふふふふふふふふふ…」
広間にカツカツとヒールの音が伝播する。それは恐れも同様に。
通称「Terror(テラー)」彼女は恐怖の象徴だった。
負けるわけがないのです。負けていいはずがないのです。
奥で待つ彼女がいるから。
「L…O…V…E…」
「く、クソぉおお!」
あの頃のように、ずっとずっとずっと…これからも。
私は勝ち続ける。
魔力を纏った肉体は音をも超える。
「バケ…モノ…が」
「ふふ、ラブリー…リリィ」
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