第9話
どうしようもなく好きだと思った。
大好きだと思った。
瞬に触れたいと思った。
こう思う私はおかしいのだろうか。
瞬の背中から腕を回す私はぼんやりとそんな事を考える。
あまり知らない瞬の背中は男の人で、硬くて広かった。
思わずギューと腕に力を入れた。
「菜緒…?」
やっと届いた瞬の声は少し戸惑っていた。
そして、私の腕に手を掛ける。
「ただいまー!」
玄関からおばさん達の声がした。
私はパッと瞬から体を離す。
「ごめん!」
「菜緒」
まだ何かを続けようとする瞬に「ごめん」ともう一度遮った。
それから瞬の目も見ずにその場を飛び出す。
「菜緒ちゃん帰って来てるのー?」
すぐそこでおばさんが私を呼んだ。
溢れ出した涙を両手で拭い、平常心を保つ。
そして一息ついた。
笑顔を作り、「お帰りなさい」とおばさんとおじさんを出迎える。
「ごめんねーちょっと買い物長引いちゃって」
「あ、おじさん持ちます」
「菜緒ちゃんすまんね」
「すぐご飯の準備するからね!」
悟られないように笑顔は保った。
ほんの一瞬だけど、気付いてしまった。
私の腕に手を掛けた瞬。
その手が私の腕を剥がそうとした事。
拒まれた…
あれだけで十分すぎるほど瞬の答えはわかってしまった。
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