第3話 異質過ぎるジョブ【略奪者】


 一週間後。


 冒険者として活動を始めた矢先、略奪者とかいう意味不明なジョブを選んだことで、俺のやる気は一気に削がれていた。


 碌にダンジョン探索することなく日常を過ごしていた俺だったが、今日ある人物から連絡が届いた。東京迷宮スカイツリーでの配信を最後に、突如として失踪を遂げた人気美少女配信者で、幼馴染でもある暁メグル・・・・である。


 メグルを自宅へと招き入れた俺は愚痴をこぼしていた。


「メグル、見ろよ俺のクソみたいなステータスをよ。冒険者ギルドで初回登録した時、間違って『略奪者』を選んだら訳の分からないスキルしかないんだけど」


『うーん、ジョブにはそれぞれ特徴があって攻略の仕方が変わるから、その強奪を活かして進めていくしかないんじゃないかな』


「強奪を使う相手が見当たらないんだよね。ダンジョンでたまたま出くわした人のアカウントを強奪したら、その人に訴えられて裁判沙汰になるだろ?」


『間違いないね……。ダンジョンに費やしてきた時間を丸ごと奪われるとか前代未聞だから、バレたら即刻アウトだよ。リスナーにもバレるしね』


「俺のアカウントもう詰んでるじゃん。過去に戻ってやり直したいくらいだぜ」


 後悔を口にする俺に対して、メグルは突拍子もない事を話し始める。


『試しに私のアカウント強奪してみれば? 私はもうダンジョンに潜る余裕はないから、冒険者を続けるつもりもないし、達郎に渡しちゃってもいいよ』


「マジ?!」


『マジだよ、大マジ。五年もやってたんだから放置するだけってのは勿体無いじゃん? それなら誰かに使ってもらった方がいいって』


「流石は俺の幼馴染で同級生の暁メグル様だ! この恩はいつか必ず返すよ! さてと……」


【冒険者アカウント】≪タツロー≫

【レベル】≪1≫

【ジョブ】≪略奪者≫

【所持金】≪5000G≫

【チャンネル登録者数】≪0≫

【基本スキル】≪配信≫

【攻撃スキル】≪パンチ≫

【固有スキル】≪強奪≫

【奪ったアカウント】≪なし≫


「メグル、少しジッとしててくれ。俺も初めて使うからどうなるか分からないんだ」


『はあい、りょうかい』


 俺は精神を研ぎ澄ませて集中する。メグルに向かって手をかざした瞬間、両手から溢れ出した光がたちまちメグルの体を多い尽くし、その姿を丸ごと隠してしまう。グルグルと光が回転を始め、最終的には俺の体へと吸収されていった。


「こ、これは……」


【冒険者アカウント】≪タツロー≫

【レベル】≪37≫

【ジョブ】≪略奪者≫

【所持金】≪5000G≫

【チャンネル登録者数】≪0≫

【基本スキル】≪配信≫

【攻撃スキル】≪パンチ≫

【固有スキル】≪強奪≫≪モザイク≫

【奪ったアカウント】≪メグル≫


『レベルが17に上昇しました。新たなスキル【モザイク】を取得しました』


 俺は略奪者の固有スキル『強奪』を使用したことにより、大量の経験値を取得することに成功した。


 アカウントを奪われたメグルはというと、見るも無惨な姿へと変貌を遂げていた。


『キャーーっ!!!?』


「大丈夫かメグル!!」


 体を取り巻いていた光が失われ、全てのアカウント情報を奪い取られたメグルが、全裸の状態で座っていた。


「な、な、何やってんの?! なんか色々見ちゃって申し訳ない」


『全て脳内から消去するなら許してあげる。それにしても、文字通り全てを強奪されちゃったみたい。アカウント情報が全部無くなってる』


「なるほど。アカウントのみならず、女体すらも拝めてしまうって凄いスキルだな。数あるジョブの中でも極めて異質なジョブだろ」


『いかがわし過ぎて褒められるスキルじゃないよね……。タンスに入ってる達郎の服借りるから、それまではこっち見るの禁止! 見たら殺す!』


「小っちゃい頃一緒にお風呂入ったんだから別にいいじゃん、そんな気にしなくてもさ」


『色々成長してるんだから普通気にするって!』


「そういえば、新しいスキル使ってみよっかな」


 俺はレベル上昇によって新たに取得したスキルの【モザイク】をメグルに向かって使用してみた。


「はっ!!」


『なんか、体に変なモヤが纏わりついて……』


「これで全身にモザイクがかかったから、もう服を着る必要はないみたいだ。そのままで居ても問題ないと思うよ」


『そういう問題でもない気がするんだけど……とりあえずパジャマだけ借りるね。トランクスはさすがに履けないからこれで我慢するよ』


 モザイクがどの様な形でダンジョン攻略に役立つのかは疑問だが、これで最強のアカウントを手に入れることが出来た。


「最近METUBE開いてる? すごいコメントいっぱいきてると思うけど」


『そういえば全く頭になかったかも。今は達郎がアカウント持ってるんだから開いてみなよ』


 暁メグルがダンジョンを引退してから既に一週間が経過しているため、多くのファンが突然のメグルの失踪を惜しんでいた。


“メグるん、どうしたん?”

“一週間経っても音沙汰なしって……”

“まあ学生だし彼氏でも出来たんじゃねーの”

“私、ずっと待ってるから!!!”

“ダンジョンを捨てた女”


 リスナーの多くがメグルの復帰を諦めかけていた中、唐突に冒険者アカウントのメグルっぽい"何か"からコメントが届く。

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