第3話
どうしてこうなったの?
私を襲う空腹感に虚無感に痛み。
あの頃の彼に戻すにはどうすればいい?
私は一人スマホの中から考えた。
※
大切なものを失ってからは何もやる気が起きない。
その時、部屋の前から音がした。
何があったか大体分かる。
一応確認しに行こうとベットを転がるように降りた。
扉をゆっくり開けると、部屋の前にはラップにかけられたご飯がお盆に置かれていた。
母の朝ごはんの呼びかけに答えないのが日常になってから、ご飯はこのように部屋の前に置いて貰っている。
ただ食欲がない。
確認だけして、心の中で「ご馳走様」といい自分の部屋に戻った。
とにかくやる気が起きない俺は眠たかったので寝ることにした。
しかし寝てばっかりなので、寝すぎて頭が痛くなった。
起きているのも辛いし、寝るのもつらい。
とにかくつらい、心が沼にはまって沈んでいくような感覚。
俺は携帯を突然つかみ取り、遺書を書こうと思った。
その時、スマホが勝手に動き出した。
スマホの壁紙が勝手に更新された。
スマホの壁紙には俺を激励する言葉が書かれていた。
この出来毎がきっかけで少し前を向けるようになった。
※
俺のスマホの中には誰か人が住んでいる。
最初は、違和感しかなかった。
ある時、スマホの中にいる人物に質問してみた。
この人物は誰なのか探りを入れてみたくなった。
すると俺の質問に対して見事に全問正解した。
加奈しか知らないことを知っていた、もしかして加奈?と聞いてみたが違うと言っていた。
ただこの人物は俺について、俺の次に詳しかった。
俺は恋愛をする気にはならなかったが、スマホの中の人物は俺のことを随分気に入っているのか、沢山褒めてくれた。
昔、最後まで書き上げることが出来なかった小説を読んでもらったら大好評を貰った。
小説を読んでもらって褒めてもらうことなどまずないから、まんざらでもない気持ちになった。
「私が同じクラスメイトだったら青君のこと絶対気になっちゃう」
とか言われた。
スマホの中の人物は俺の傷ついた心を癒してくれた。
少しずつ、自身を取り戻した俺は大学へ進学することにした。
大学受験のための勉強はスマホの中の君が心の支えになった。
ただ、この頃から友達に誘われて森林公園に遊びに行くようになった。
理由はここでは言えない。
あくまで、息抜きだ。
そうして二人三脚で勉強した結果俺の大学生活は始まった。
大学で出来た一番仲のいい友達に俺のスマホの秘密を少し話してしまった。
「お前薬やっているの?」
親友は俺の身に起きたことを信じてくれなかった。
そこから、俺が薬をやっているやばいやつという噂が広まっていった。
大学の友達からあからさまに避けられるようになっていった。
薬は確かにやっているが幻覚は見ていない。
今、俺のスマホの中で起きていることは現実だ。
ただ、やばいやつと親友に思われたことに酷く心を痛めた。
※
「あのさ、話があるんだけど」
「俺の今身に起きていることって現実だよね?」
「現実だよ。」
「証明してって言ったら証明してくれる?」
「何かあったの?」
「大学の友達に薬やっているってばれそうになった!」
この時俺は失言をしてしまった。
急いで送信を取り消そうとしたが時はすでに遅かった。
スマホの中から返信が来た。
「薬って何?持病は持ってないよね」
「創造性を高めるために必要だった。いい小説を書くためのアイデアが必要で」
「本当にやめた方がいい!今からなら間に合う。自首して。」
俺の中の何かが切れた。
ずっと味方だと思った人物に否定された感覚はとても空虚だ。
ただ、俺の邪魔をするならこいつも敵だと思った。
こいつはもしかして警察じゃないのか?
ずっと俺のことを監視していたのじゃないかと思い始めてきた。
部屋の中に他に監視カメラがないか探すことにした。
なんか、監視されている感覚がする。
ただ机の裏、カーテンの影、風呂場どこを探しても監視カメラは見つからなった。
その間に携帯がブーブーと音をなっていた。
監視されている感覚はたぶんこれだ。
この中にいる人に監視されている。
俺はスマホを手に持った。
そしてTVに向かって思いっきり放り投げた。
ガシャンと大きな音が部屋に鳴り響いた。
※
青はこのスマホを破壊した。
もうこのスマホを使うことはないだろう。
スマホの充電は10%を切っている。
私の空腹感が限界に到達しようとしている。
私は自分のお腹を押さえて空腹感を我慢した。
スマホの充電が0になったら私がどうなるのか分からない。
そして体中がずきずきと痛む。
スマホの画面がボロボロなのは中から見ても分かる。
私の残りの時間は刻刻と迫っている。
私は残された時間で、最後に青と私の最後の想いで写真を眺めようと思った。
今からじゃ、とても全部見切れない量の写真が出てきた。
期限の古いフォルダから開いていった。
昔から二人で遊ぶことはあったが、異性としてお互いが意識するようになったのは高校生の時周りから付き合っていると勘違いされた時。
デートいう考えはなく、青から大事な話があると突然学校の屋上で告白された。
当時私は全然、付き合うとか全然意識してなくて、少し考えた。
ただ青の初めて付き合う人に最後に付き合うのも私でありたかった。
一週間後に告白を受け入れて私たちの交際はスタートした。
付き合って初めてのデートは会った時からお互い変に意識をした。
理由は水族館に行ったのだが、周りがカップルばっかりでみんな手を繋いだりしていた。
手を繋いでみたいと思った時、彼の方から自然と手を繋いでくれて嬉しかったこと。嬉しくなってその時取った一枚。
「二人ともなんか恥ずかしそうだな」
自然と笑みがこぼれた。
少し会えない間が続いたりして、喧嘩した時に動物園に行った時の写真。
なかなか、この時はお互い謝ることが出来なかったなぁ。
でも最後には喧嘩のことも忘れるくらい自然と今まで通り楽しんでいたな。
次は誕生日の時の写真、高校生なのにアルバイト頑張ってネックレスをサプライズで貰った。
大好きな人から貰うプレゼントがこんなに嬉しかったことを忘れたくないと思った。
私は次々と思い出を振り返った。
次の写真は日付が少し飛んだ。
私が入院することになって思い出の写真が増えることはなくなってきた。
その時に彼が病室で写真や動画を取ろうと提案咲いてくれた。
これはその時、初めて青から取ってくれた写真。
全部が全部、大切で特別な思い出だった。
沢山の懐かしい思い出とともに自然と涙が溢れてきた。
空腹感と痛みを少しの間忘れることが出来た。
「スマホの中にいるのは私だよ。加奈だよ。
今更ごめんね。」
彼はもうスマホは見ていないが壁紙を変えた。
※
「残りの充電は10%です」
SIRIからアナウンスがあった。
私は大きく深呼吸をして呼吸を整えた。
そしてSIRIに110番通報をお願いした。
彼のために出来る最後の、最後のスマホの中からのアクション。
その後は、一人で画面に映る美しい思い出達をずっと眺めていた。
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