第7話 これは序章に過ぎない
両親、祖母、親友誰が無くなろうと涙が出ることはなかった。両親の葬式も、祖母の葬式も、親友の葬式も皆が俯き、目を赤くしていた。なのに、私のハンカチが濡れるのは手洗いのときだけだ。
思い出すとまだ、中学生のときは葬式で泣いていた覚えがある。父方の祖父が亡くなった時は、ハンカチで拭いきれないほど泣いていた。私が変わったのだろうか、もしくは周りが変わったのだろうか、どちらにせよ泣けなかった事実は変わらない。死んだ事実は変わらない。そして、それについて悩む理由もない。今を暮らせているのだから。
あの後、色々とあった。今は、火事が起きた時に声をかけてくれた従姉妹の養子へとなった。従姉妹には小学校1年生のひとり娘がいた。最初は接し方が分からず、会話もぎこちなかったが、同じ屋根の下で過ごすにつれて自然に接せれるようになつた。私が養子だったためか、犬猿になることも無く平穏に日常を過ごせた。従姉妹もいい人で、高校も大学も無事卒業出来た。従姉妹の仕事は、火事に巻き込まれた夫が小さいながら会社を立ち上げ、社長だったらしく、その会社を引き継いで社長をやっている。最初は、その会社の重要な立場にもなったことの無い人間が、この会社を支えていけるのだろうかと心配していた。だが、彼女は夫の仕事をよく見て、観察し、夫の話もよく聞いていたようで、凄い実力を発揮していた。そんな彼女に深い尊敬を抱いた。
そんな充実した、日々を過ごしていたにも関わらず、私の心は、どこかが欠けていた。この世間一般的には幸せと呼ばれる日々は、私にとってとてつもなく、退屈な日々だったのかもしれない。アルバイトをし、金を得ても。スポーツの大会で、優勝をおさめても。私が、本当の幸せに出逢うことは無かった。涙が出ることがなかったのは、その為かもしれはい。悲しみとは、幸せがあるから、あるものであると私は考える。私は、歩み出していなかったのだ。楽しみ、幸せ、幸福へと。ただ、皆より出遅れていたのだろう。だから私は、その経験したことない幸せへと歩んでみようと思う。
靴紐を強く結び、行ったことのない道へと今日も前進する。
血が骨壷に入る ZIN @ZIN373
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