第4話 変わりえないターニングポイント
やっとショッピングモールについた淡実たちは、入口へと歩み始めた。
「そいえば何買いたいの?」
「服とかバッグとかかな~」
私の質問へ軟風子はそう答えた。入り口をくぐると、真っ先に目に入ったのは食品売り場で、その向かい合わせに日用品売り場がある。その両方もを抜けた先に、エスカレーターがあり、二階には洋服を主に売っており、三階にはゲームセンターや映画館が設置されている。屋上は駐車場になっていて母親と来ていた時は、決まってそこに車を停めていた。
長年の付き合いもあって、軟風子との会話が途切れることはあまりなかった。途切れたとしても話さない時間は苦ではない。
エレベーターを上ってからは主に軟風子の服選びにアドバイスしたり、時に
「これ、似合うって!」
と私の服や靴などを選んでくれていた。そんな時間はあっという間に過ぎ去ってしまうもので...。幼いころは、一時間が、何でもできる!と思えるほどに長く感じていたが、今では一時間どころか二時間、三時間もすぐに過ぎてしまう。
ショッピングモールを出るころには、私は一袋、軟風子は三袋も買い物袋を手に提げていた。おばあちゃんに四時くらいに帰るといったものの、すでに3時50分を回っていた。店を出てから数分で来たバスに乗り、公園の最寄りバス停で降りた。帰りのバスも軟風子は寝ていた。公園に着くと
「今日も楽しかった!!またそのうち遊ぼうねー!」
軟風子の別れの言葉に大きく
「うんっ!!」
と返事をした。
「ばいばーい」
と手を振る彼女へ
「また~」
そう言って手を大きく振り返した。
私は今日の思い出にふけりながら帰り道を歩んでいた。心はとてもすっきりとした気持ちで、良い日だと心の底から思えた。右腕に掛けた買い物袋の重さなど、微塵にも感じなかった。
家の玄関前に着きリュクの小ポケットから鍵を出し、ドアを開けた。真っ先に耳に入ってきたのは、固定電話の着信音だった。靴を少し早く脱ぎ、受話器を取ろうとしたが、小走りでおばあちゃんが駆け寄って電話に出た。そんなおばあちゃんを尻目に、階段を上り始めた。階段の半分まで上ったところでおばあちゃんの
「えっっ!!」
というとても大きな声で肩がビクッと動いてしまった。その後もおどおどしい声でトーンは低く、涙を堪えるような話し方だった。気になったが、とりあえずリュックを自室に置いて来ようと急いで階段を駆け上がった。部屋にリュックを投げ、階段を駆け下りた。おばあちゃんを見ると体は震え、眼は赤くなり泣いていた。私のことなど気にも留めず。まっすぐに壁を見ていた。涙は皺の寄った頬を伝り、顎から床へと滴り落ちていた。私は数分間立ち尽くしていた。私は後ろポケットに入れていたハンカチをおばあちゃんに渡し、おばあちゃんは今私がいることに気付いたような眼差しで私を見て、ハンカチを受け取った。間もなくして、通話は終わった。おばあちゃんは力強くハンカチで目を拭って、私に話し始めた。
「淡実ちゃん、落ち着いてよく聞いてくれよ」
その言葉に私は声が出せず、ゆっくりと頷くしかできなかった。
電話の内容を要約するとこうだ。私の父親と母親どちらもが交通事故だそうだ。タクシーを利用していたところ、信号無視の車と衝突した。母は、頭を強打し死亡。父は車が衝突した側に居たため、全身を強打し、死亡。タクシー運転手も重症だそうだ。信号無視の車は、飲酒運転の二人でとてつもない速さで走行していたそうで、仕事で使っていたダンプカーで衝突した。両親は遠くの
おばあちゃんは話し終えると私を抱きしめ
「大丈夫、大丈夫」
と私を励ますように声をかけてくれたが、涙がでるどころか悲しみも、焦りも私には一切なかった。
おばちゃんは大きく深呼吸をし
「病院今から行くから、準備しな」
そう言い放つおばあちゃんは決心した目をいていた。おばあちゃんはリビングへ向かい、私は自室へ戻りハンカチを持ってからすぐに1階へ戻った。洗面所以外の部屋は電気が消されており、リビングは夕焼け色に染まっていた。洗面所を覗くとおばあちゃんが顔を洗っていた。私はトイレに駆け込み、トイレから出るとおばあちゃんは靴を履き、上着を着て待っていた。私は急いで上着を着て、かかとを踏みながら靴を履き外に出た。
「病院までどうやっていくの?」
「さっきタクシーを呼んだからもうすぐここにタクシーが来るよ」
娘がタクシーに乗って死んだのに、タクシーを使うのか。っと思ったが気にしている場合ではない。第一タクシーには何の非もない。
タクシーが着くとすぐに駆け寄り、ドアを開けた。
「ご利用ありがとうございます。」
「お願いします。」
おばあちゃんは心に余裕がない様子だった。これ以降車内での会話は病院に着くまでなかった。
病院に着くと
「ご利用ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
おばあちゃんは早口でお礼を言、そそくさと下車した。私たちは、早足で病院の入り口に向かい。受付の女性に事情を言い、案内してもらった。両親は顔を白い布で覆われていた。おばあちゃんはハンカチで顔を覆い泣く声がハンカチから漏れていた。私の頬に涙が伝ることはない。
私は何も感じなかった
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